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ハイドン Haydn
交響曲第60番ハ長調Hob I-60「うつけ者」

ハイドンの交響曲には,あだ名の付けられた曲がたくさんありますが,その中でも異彩を放っているのが,この第60番「うつけ者」です。もともとは,ジャン=フランソワ・ルニャールの戯曲のために書いた自作の劇付随音楽に基づいて作られた交響曲ということで,ハイドン自身によって,この愛称が付けられています。

戯曲の原タイトルは,イタリア語で「Il Distratto」,ドイツ語で 「Der Zerstreute」というものですが,この言葉に日本語訳は一定しておらず,「愚か者」「うつけ者」「迂闊な男」「迂闊者」といったいろいろな呼び方がされています。いずれにしても,交響曲のタイトルとしては,かなり変わったものです。

曲の内容もかなり変わっています。この戯曲の序曲と幕間音楽を組み合わせた曲ということで,交響曲としては変則的な6楽章制を採っており,その中にいろいろな受け狙いのアイデアが盛り込まれています。ハイドンは,似たような構成でどれだけ多彩な交響曲を作れるか?といった試行を続けた作曲家ですが,そういった点で,大変ハイドンらしい作品ということができます。

交響曲の中に劇場的な要素を盛り込んだハイドンの創意工夫は,大いに受け,オーストリアでは人気の作品となりました。現代では演奏される機会はそれほど多くはありませんが,その楽しさが十分に伝わってくる曲です。

作曲年:1774年以前
楽器編成:オーボエ2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,弦五部
※トランペットの役割はホルンに音を重ねるだけなので,後年追加された可能性もあります。

第1楽章
楽章は,序奏とソナタ形式の主部からなっています。序奏は,アダージョ,ハ長調,2/4で,力強い主和音の響きの後,第1ヴァイオリンがゆったりとしたメロディを歌い始めます。

フェルマータとなって,半終止した後,テンポがアレグロ・ディ・モルトに変わり,軽快な動きが中心の3/4の主部になります。第1主題は活気のあるもので,強弱のメリハリがくっきりと付けられたものです。経過部でト長調に移調された後,第2主題部になりますが,性格の違いはなく,そのままの勢いで,小結尾になります。

展開部では,第1主題の動機がト長調で現れた後,転調が行われていきます。途中,第2主題がイ短調で出てくる辺りが「告別」交響曲を思わせる雰囲気があり,印象的です。再現部は呈示部がほぼ忠実に繰り返されます。

第2楽章 アダージョ,2/4,ト長調,ソナタ形式
最初にヴァイオリンが静かに第1主題を呈示した後,管楽器がそれを茶化すように応答します。この楽章は,5小節単位で動く不規則な構造になっていますが,その辺も普通とちょっと違う感じをかもし出しているようです。続いて,ニ長調になり,弦楽器の豊かなユニゾンの響きを中心とした第2主題となります。小結尾では,管楽器が加わって,呈示部が終わります。

展開部は第1主題が展開された後,新しい素材を加えて,短調に転調されてます。再現部は,ほぼ呈示部どおり繰り返されます。

第3楽章 メヌエット ハ長調,3/4,複合三部形式
オーボエとヴァイオリンが演奏する優雅な主題で楽章は始まります。このメロディには,ヴィオラとチェロが体位されており,壮麗な雰囲気もあります。中間部では,各声部が模倣されながら進みます。

トリオは,バルカン半島やハンガリーの民俗音楽的な気分を持ったもので,低音の持続音をはじめとして,粗野な雰囲気を出しています。

第4楽章 プレスト,ハ短調,3/4
自由な関係を持つ3つの部分からなった楽章です。第1部の最初は,弦楽器のユニゾンの切迫した雰囲気で始まります。中間部は変ロ長調になり,細かい音の動きが続きます。

第2部はハ短調,ヘ短調と転調し,第3楽章のトリオ同様,野趣のあるバルカン風の雰囲気になります。第3部は,第1部の再現ではなく,金管楽器やティンパニが活躍する新しいメロディが出てきてます。その華やかな雰囲気の中で楽章の中で締めくくられます。

第5楽章 アダージョ,ヘ長調,2/4,3部形式
第1部は,第1ヴァイオリンが他の弦楽器の伴奏の上で,まるでオペラのアリアのような優しいメロディを歌って始まります。

その後,唐突に,トランペットのファンファーレが出てきた後,中間部となり,再度,第1部同様,ヴァイオリンのやさしいメロディが出てきます。その後,ニ短調になりますが,すぐに,やさしいメロディに戻り,第1部が再現されます。終結部では,印象的な3連音符が繰り返されます。次第にその繰り返しが速くなり,第6楽章へとつながります。こういった辺りが,非常に劇場的です。

第6楽章 フィナーレ プレスティッシモ,ハ長調,2/4,3部形式
楽章の最初に出てくる主題は,フィナーレに相応しく,明るく元気に和音を強奏するものですが...しばらくすると,音楽の流れが止まり,弦楽器が調弦をし始めます。これは,演奏中にヴァイオリン奏者の調弦が間違っていることに気付いて調弦をやり直すという設定です。最初,最低音がヘ音に調弦されていたものを通常のト音に変更することになりますが,この辺のパフォーマンスが実演では大きな見ものとなることでしょう。

その後,元気の良い音楽が再開されますが,今後は突然,ト短調でバルカン風のメロディが出てきて,中間部になります。この部分がすぐに終わった後,最初の部分に戻り,すっきりと全曲が結ばれます。
(2008/05/23)