ハイドン Haydn
■交響曲第82番ハ長調Hob.-I 82「熊」

●パリ交響曲について
ハイドンの交響曲では「ロンドン交響曲」と呼ばれる,最後の12曲の交響曲群がよく知られていますが,もう一つ「パリ交響曲」という6曲のセットがあります。こちらの方は,ハイドンの名声が徐々にヨーロッパ中に知られるつつあった1785〜1786年にかけて書かれたものです。

この交響曲群が「パリ交響曲」と呼ばれるのは,パリから作曲の依頼があったからです。当時のパリには,コンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックという大編成(100人ぐらいいたという話です)のアマチュア・オーケストラがあり,当時の人気作曲家のハイドンにこれらの交響曲の作曲を依頼しました。ちなみに,この「パリ交響曲」ですが,87番,85番,83番,84番,86番,82番の順に作曲されたと言われています。

この6曲の編成は次のとおりです。
87番 fl−Ob*2−fg*2−hrn*2−弦5部
85番 fl−Ob*2−fg*2−hrn*2−弦5部
83番 fl−Ob*2−fg*2−hrn*2−弦5部
84番 fl−Ob*2−fg*2−hrn*2−弦5部
86番 fl−Ob*2−fg*2−hrn*2−Tp*2−Timp−弦5部
82番 fl−Ob*2−fg*2−hrn*2(orTp*2)−Timp−弦5部

第82番「熊」は,このセット中の最後に書かれたもので,編成的にも最大となっています。ニックネーム「熊」の由来は,第4楽章の主題の雰囲気によります。バスの持続音の上に出てくる主題がのっそりとした熊の唸り声を思わせるからです。そのせいか,全体的に攻撃的な雰囲気のある曲となっています。

第1楽章
序奏なしでいきなり,力強い第1主題で始まります。この主題は,「ドーミーソドー...」という単純な分散和音で始まった後,旋律的な部分に続きます。その後,「タカタンタタタ」というリズミカルで祝祭的で堂々とした部分が続きます。管楽器による経過的な部分が続くうちに転調され,最終的にト長調になります。

その後,フルートとヴァイオリンによって優しい感じの第2主題が演奏されます。続く,小結尾では低音楽器によって上昇するスタッカート音型が演奏された後,高音楽器が下降するスタッカート音型でそれに答えます。

展開部は,綿密な構成で出来ています。まず,第1主題後半の旋律的な部分から展開されます。その後も第1主題の素材を中心に転調が繰り返されます。その後,第2主題がイ長調で展開されます。再現部は,和音の付け方に変化がありますが,ほぼ型どおり進んで行きます。最後は第1主題のリズム音型で結ばれます。

第2楽章
ヘ長調とヘ短調の2つの主題が交互に現れる二重変奏曲です。長調の第1主題は弱音のアレグレットでさりげなく,流れるように始まります。第2主題の方は第1主題が短調になっただけのようなものです。両主題ともABAの3部構成になっています。

その後,この両主題が変奏されます。変奏でフルートが加わったり(ハイドンによくあります),バスの音型に動きが加わったりしますが,基本的な小節数などには変化はありません。その後,この両主題が少し変化された形で再現されます。最後にコーダがついて終わります。全体に古典的な均整の取れた落ち着きのある楽章となっています。

第3楽章
メヌエット楽章です。ハ長調で書かれていることもあり,堂々として晴れやかな気分があります。トリオでは木管楽器などがソロを演奏します。後半はハ短調から変ホ長調へと転調されます。その後,最初の部分が戻ってきます。

第4楽章
熊の足取りのような低音の持続音を伴った軽快な第1主題で始まります。この部分は「熊」の雰囲気もありますが,バグパイプ風でもあります。第4楽章は,この主題を中心に緊密に構成されています。この軽快なメロディをオーボエとファゴットが受けます。その後もこういう応答が続きます。第2主題の方も2本のオーボエによって軽快に演奏されます。その後,小結尾になり,呈示部が結ばれます。

展開部はもっぱら第1主題が展開されます。非常に精巧で,充実した雰囲気のある展開部です。ホルンの強奏が出てきた後,再現部になります。再現部は第1主題から第2主題への経過部が新しいものになっています。第2主題がほんの少し顔を出した後,コーダになります。コーダでも第1主題の「熊の足取り」が執拗に出てきます。一瞬,弱音になった後,ティンパニを伴って再度第1主題が盛り上がってきて全曲が力強く結ばれます。(2004/02/28)