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ハイドン Haydn
交響曲第96番ニ長調 Hob.I:96「奇跡」

ハイドンの交響曲の最後の12曲は,通常「ザロモン・セット」と呼ばれています。その中で最初に作曲されたのが96番です。ヨハン・ペーター・ザロモン(ドイツ生まれのヴァイオリニスト)がロンドンで行っていた「ザロモン・コンサート」という定期演奏会用に作られたため,このように呼ばれていますが,大変人気の高い演奏会で,1791年から1795年にかけて第1期,第2期に分けて続けられました。

この12曲の中では「軍隊」「時計」「太鼓連打」「ロンドン」といったタイトル付きの作品が特に有名ですが,「奇跡」というあだ名で呼ばれる,この96番は,それらに次いで知られる作品です。古典派交響曲の完成期の作品ということで,少ない素材から充実した表現を聞かせてくれる名作となっています。

なお,このあだ名の由来ですが,「演奏後のアンコールの最中に会場のシャンデリアが落下したが,舞台の前付近に人々が集まっていたため,「奇跡的」にケガ人が出なかった」というエピソードに基づくものです。ただし...この時演奏されていたのは,96番ではなく102番だったということが分かっていますので,このあだ名自体,全く意味のないものと言えます。

まあ,第104番「ロンドン」のタイトルにしても,全く意味がなく(93番以降は,みんな「ロンドン」で初演されているので),単なる識別用の呼び名という面もありますので,96番と言えば「奇蹟」ということで,別に問題はないと思います。それにしても,良いあだ名をつけてもらったものです。

編成:フルート,オーボエ2,ファゴット2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,弦五部

第1楽章
他のザロモン・セットの作品同様,序奏部(アダージョ,ニ長調,3/4)とソナタ形式の主部(アレグロ,ニ長調,3/4)から成っています。序奏部はニ長調の主和音が静かに鳴った後,優雅に下降するようにして始まります。その後,ニ短調に転調して同じ動機が繰り返されます。このパターンもザロモン・セットの他の作品によく出てくるものです。最後,オーボエが印象的に登場した後,主部に入っていきます。

主部は,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが軽やかに戯れあうような第1主題で始まります。この主題の中にいろいろな動機が含まれており,それらが巧みに使われているのがこの楽章の特徴です。その後,「ターン,タタタ」といったリズム動機が繰り返し出てきますが,これもまた楽章の統一感を高めています。第2主題は第1主題の一部を変形したもので,イ長調で登場します。フルートの音が印象的な小結尾で呈示が締めくくられます。ここで繰り返しが行われます。

展開部は,ロ短調で始まります。ここでも色々と調性を変えながら第1主題を中心に念入りに展開されます。ハイドンの好んだ疑似再現の後,ニ長調に戻り,少々短縮された再現部になります。コーダも第1主題とリズム動機で作られていますが,最後で一瞬,ニ短調になるのが独特です。

第2楽章 アンダンテ,ト長調,6/8,3部形式
軽快なシチリア舞曲風のリズムに基づいていますが,ところどころ休符が入っているせいか,それほど舞曲風ではない楽章です。フルートの使い方などは,いかにもハイドン的です。その後,いろいろと楽器を変えながら静かに進んだ後,中間部は,ト短調に転調されます。ユニゾンで演奏されるので,非常にドラマディックに響きます。その後,最初の部分が再現された後,コーダとなります。この部分では,2つの独奏ヴァイオリンや木管楽器群が主題を演奏し,室内楽的で精緻な雰囲気になります。最後は静かに閉じられます。

第3楽章 メヌエット。アレグレット,ニ長調,3/4
いかにもハイドン的なメロディを持ったメヌエット楽章です。強弱のコントラストがしっかりつけられ,くっきりとした印象を与えてくれます。トリオは,レントラー舞曲風のひなびた気分を持つものでオーボエが活躍します。

第4楽章 フィナーレ。ヴィヴァーチェ,ニ長調,2/4
ロンド主題と2つのエピソード主題が組み合わされたロンド風の楽章です。ロンド形式とソナタ形式が混合された楽しい気分をもっています。ロンド主題は,とても軽妙な動きを持っています。ハイドン自身「できるだけ弱音でテンポを極めて速く」と指示していますが,何が起こるのだろうと期待を持たせてくれるものです。その後は,途中エピソード主題がをからめ,頻繁にニ短調に転調しながら曲は進んでいきます。この長調と短調の交錯というのが,この曲全体を通じての特徴となっています。最後は,簡潔なコーダで明るく締めくくられます。(2008/07/26)