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ハイドン Haydn
交響曲第98番変ロ長調Hob I-98

ハイドンの後期の交響曲は「ザロモン・セット(ロンドン・セット)」と呼ばれていますが,その第1期の5番目に作曲されたのが第98番です。この交響曲については,次のとおり楽器使用法に特徴があります。
  1. 変ロ長調の交響曲で初めてトランペットとティンパニを使用された。
  2. 第4楽章にハイドン自身が演奏する鍵盤楽器のためのパートがある。通奏低音ではなくソロのパートがあることは当時としては異例(ピアノ・フォルテで演奏したと言われています)。
  3. 第2楽章では独奏チェロ,第4楽章では独奏ヴァイオリンが活躍。
これらは,ロンドンのオーケストラでの経験から導き出されたものとと考えられています。

この曲はモーツァルトの死の翌年の1792年に初演されてますが,その死に対する深い悲しみが曲想に反映しているとも言われています。特に第2楽章は,「ジュピター交響曲」を緩徐楽章を思わせる気分を持っています。

編成:フルート,オーボエ2,ファゴット2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,チェンバロ,弦5部

第1楽章
[序奏部]アダージョ 変ロ短調 2/2拍子
変ロ短調でゆったりと始まります。一旦,変ニ長調になった後,再度変ロ短調になり,主部に移行します。

[主部]アレグロ 変ロ長調 2/2拍子 ソナタ形式
第1主題は,序奏部と同様の音の動きですが,テンポがアレグロになっているので,別の曲に生まれ変わったように響きます。ところどころ充実したトゥッティ(全奏者による合奏)の響きが挟み込まれ,精力的に曲が進んでいきます。この主題が属調で繰り返され,時折,短調への傾斜も見せた後,呈示後半で第2主題が現れます。ゆったりとしたオーボエの音とそれに応えるヴァイオリンの動きの対比が印象的です。その後,簡潔に呈示部は締められます。

展開部は,第1主題を中心に扱われます。メロディが短調に変わり,各楽器がカノンを呼びかわしたり,ヴァイオリンが忙しく無窮動的に動き回ったり,多彩な展開を見せます。段々と静かに落ち着いていった後,いきなり第1主題がユニゾンのフォルテで演奏されて,再現部になります。経過部は短縮されていますが,第2主題の方は,少し拡大されています。その後,第1主題の最初の部分に基づいたコーダで,締められます。

第2楽章 
アダージョ ヘ長調 3/4拍子 自由な変奏曲
イギリス国家「ゴッド・セイブ・ザ・キング」の主題による自由な変奏曲と言われていますが,それほどはっきり国歌と分かるわけではありません。3部分形式にソナタ形式の原理と変奏の方法が混合された形式とも言われています。上述のとおり,モーツァルトの「ジュピター」交響曲の第2楽章と大変よく似た雰囲気があります。

まず,イギリス国家をほのめかす主題がゆったり出てきます。時折,短調に変わり,激しい音の動きが連続するなど,深いドラマを内包しながら進んでいきます。後半では,独奏チェロのオブリガードが低音に現れ,国歌の主題が再現します。その後,再度変奏が行われた後,名残惜しい気分を残して,静かに閉じられます。

ちなみにモーツァルトの「ジュピター」交響曲の第2楽章も同じへ長調で書かれています。3連符が続くような部分もよく似ています。ハイドンが「ジュピター」交響曲を聞いていたとは思えないので,この2つの楽章の類似性を聞くと,この2人の大作曲家の不思議な因縁を感じざるを得ません。

第3楽章 
メヌエット アレグロ 変ロ長調 3/4拍子
ハイドンの交響曲に典型的なメヌエット楽章です。主部では,最初,第1ヴァイオリンとフルートが重なっていますが,後半では,独立した動きを見せ,立体的に交錯します。

中間部はヴァイオリンとファゴット,その後,オーボエ,フルートなどによるレントラー舞曲風になります。この部分では半音階的な音の動きが効果的に使われています。最後,主部が繰り返されて終わます。

第4楽章 
フィナーレ プレスト 変ロ長調 6/8拍子 ソナタ形式
ソナタ形式で書かれていますが,途中で独奏が入るなど,協奏曲的な性格も持った独特の楽章です。

第1主題が弦楽器で軽やかに呈示された後,オーボエが繰り返します。トゥッティによる経過部が続き,属調に移されます。第2主題は,弱音のスタッカートで演奏される上向形のフレーズが高音と低音で対話をするような印象的なものです。その後,トゥッティによる力強いフレーズが入り,小結尾になります。

展開部では,気分が一転し,独奏ヴァイオリンが大活躍します。第2主題が主に扱われますが,途中で,下降する新しい短調のメロディも何回も登場します。再現部も独奏ヴァイオリンによる第1主題で始まります。その後,トゥッティによる経過部,主調による第2主題とつながります。

全曲を締めるコーダでは,テンポがピウ・モデラートに落ち,ちょっと優雅な雰囲気で第1主題が演奏されます。その後,テンポが速くなり力強さが戻ってきますが,これがまたまた中断されます。今度は,初演時はハイドン自身が演奏したというチェンバロ(フォルテ・ピアノ)と独奏ヴァイオリンによってまるで室内楽を演奏するかのように第1主題が再現されます(この部分は静かですがとても目立ったのではないかと思います)。最後は,トウッティによって,堂々と全曲が締めくくられます。
(2011/05/21)