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ハイドン Haydn
交響曲第99番変ホ長調 Hob.I:99

100曲を超えるハイドンの交響曲は,作曲された時期・場所などによっていくつかのグループに分けられます。この第99番は,ハイドンの交響曲の総決算と言っても良い「第2期ザロモン交響曲」という,第99番〜104番の6曲の最初の作品にあたります。モーツァルトの交響曲については,「後期6大交響曲」という呼び方がされることがありますが,この「第2期ザロモン交響曲」についても同様のことが言えます(ただし,ハイドンの場合,何せ100曲以上もありますので,93番以降の12曲を「ザロモン・セット」としてまとめることの方が普通です)。

この「第2期ザロモン交響曲」というのは,ヨハン・ペーター・ザロモン(ドイツ生まれのヴァイオリニスト)がロンドンで行っていた「ザロモン・コンサート」という定期演奏会用に作られた作品です。この頃,ハイドンは,相変わらずエステルハージ侯爵家に仕えてはいたのですが,当主の交代により,侯爵家における立場は有名無実なものになりつつありました。既にウィーンに出てきていたハイドンが,ザロモンの誘いに応じてロンドンでの演奏会用に作曲したのが,これらの交響曲集ということになります。

このロンドンでの公演は,第1期ザロモン交響曲同様大変好評で,ハイドンは相当の大金を獲得したと言われています。残された作品も,「軍隊」「時計」「太鼓連打」「ロンドン」とタイトル付きの作品を中心に現在でもよく聞かれるものばかりです。後のベートーヴェンの交響曲に直接つながっていくつながっていく偉大な作品群ということができます。

なお,このザロモン・コンサートですが,次第にフランス革命による混乱の影響を受け,優秀な歌手を呼び寄せることが次第に困難になり,1795年には中止することになりました。そのかわり,イギリスの音楽家たちが大同団結をして行った演奏会が「オペラ・コンサート」と呼ばれるものです。実は,「第2期ザロモン交響曲」の最後の3曲については,この演奏会のために作曲されたものです。厳密には,これらを「ザロモン交響曲」と呼ぶのは適切ではないのですが,現在ではこれらも含めるのが一般的となっています。

第99番は,ハイドンがロンドンに出発する前の1793年にウィーンで作曲されています。初演は1794年2月10日のザロモン・コンサートで行われています。楽器編成の上では,ハイドンの交響曲で始めてクラリネットが使われているのが注目されます。ただし,まだ独奏を行うような部分はありません。

華やかな100番「軍隊」の直前の曲ということで,それほど知られていない作品ですが,同じ変ホ長調で書かれたベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」,モーツァルトの交響曲第39番などと共通するような颯爽とした雰囲気のある曲となってます。

第1楽章
[序奏]アダージョ 変ホ長調 2/2
モーツァルトの交響曲第39番を思わせるような堂々とした和音で始まった後,一瞬ハ短調になるなど,深みを感じさせる転調が繰り返されます。最後には変ホ長調に戻り,主部に入っていきます。

[主部]ヴィヴァーチェ・アッサイ 変ホ長調 4/4 ソナタ形式
ヴァイオリンによって軽く流れるような第1主題が歌われます。この主題が力強く繰り返された後,経過部に入ります。この部分は大変リズミカルで充実したものです。途中,2度の音程で音がぶつかり合ったり,短調に切り替わったり変化に富んでいます。調性が属調の変ロ長調になった後,下降する音型が繰り返される印象的な第2主題が出てきます。その後,小結尾となります(ここで繰り返しがされます)。

展開部は第1主題冒頭の動機の後,第2主題を中心にいろいろと転調されて進んでいきます。再現部は全管弦楽による力強い響きで始まります。この点もベートーヴェンの「英雄」と共通するかもしれません。縮小された経過部の後,第2主題を中心に作られたコーダになります。管楽器とヴァイオリンとの掛け合いなど豊かな色彩感を感じさせながら,すっきりと楽章が閉じまれ増す。

第2楽章 アダージョ,ト長調,3/4,ソナタ形式
第1楽章の変ホ長調の後にト長調という全く別系統の調性が来るのは当時としては大変珍しいことです。ソナタ形式に緩徐楽章という点も含め,ベートーヴェンの交響曲につながる傾向と言われています。

第1主題は弦楽器でしっとりとゆったりと歌われるものです。後半部は木管楽器によって繰り返されます。表情豊かなメロディが続いた後,オーボエ,フルート,ファゴットによるカノンとなり,第1主題部を締めくくります。その後,ニ長調で第2主題が軽妙に演奏されます。その後小結尾となります(ここで繰り返されます)。

展開部は短調で始まります。第2主題部の伴奏がそのまま残った上に第2主題が転調されていきます。途中,6連符が伴奏に出てくるあたりでは緊張感が走りますが,すぐに穏やかな気分に戻り再現部となります。呈示部では木管楽器で演奏されたカノン風の部分が弦楽器で演奏された後,第2主題に移ります。その後,次第にスケールな大きな雰囲気となり,トランペットにファンファーレ風の音型が出てきます。最後,第2主題がト長調で演奏されて,楽章が結ばれます。

第3楽章 メヌエット,アレグレット,変ホ長調,3/4
アレグレットというテンポが指定されているメヌエット楽章です。メヌエット主題はシンプルに下降してくるものです。途中,一度休符が入り,その後フォルテになるあたり,ユーモラスな気分を持った主題です。その後,対象的に上昇する音型を持った部分も出てきます。シンペーションが効果的に使われるなど,リズムの巧妙な扱いも特徴的です。

トリオはハ長調になり,オーボエを中心に穏やかなメロディを演奏します。その後,メヌエットに戻り,楽章が閉じられます。

第4楽章 フィナーレ,ヴィヴァーチェ,変ホ長調,2/4 2主題ロンド・ソナタ混合形式
ヴァイオリンによる軽やかな第1主題で始まります。続く経過部は全管弦楽で演奏され,属調(変ロ長調)に転調されて行きます。ここでもシンコペーションの音の動きなどリズムに特徴があります。この経過部も後で繰り返し登場します。第2主題はクラリネットによる同音反復の音型から始まります。この主題も軽妙な音の動きを持つものです。その後,第1主題が再現します。

再度経過部になった後,第1主題をカノン風に扱う展開部になります。調性が様々に変化し緊張感を作った後,第1主題が主調で戻ってきます。ここでは管楽器のオブリガートが付いているのが特徴です。その後,フォルテで力強く演奏された後,一旦テンポが落とされ静かな気分になります。第1主題の要素に基づく経過部に続き,第2主題の再現が行われ,すっきりとしたコーダで全曲が締めくくられます。(2007/03/03)