ハイドン Haydn

■協奏交響曲変ロ長調Hob.I-105

ハイドンがロンドンで活躍していた時代に書かれた,協奏曲と交響曲の中間的な性格を持つ作品です(ホーボーケンの番号を見ると”交響曲第105番”という感じですが)。当時,ハイドンの作品はザロモンの主催するザロモン演奏会のシリーズで演奏されていましたが,それに対向して人気があったのがプロフェッショナル・シリーズという演奏会シリーズでした。そのシリーズで好評だったのがプレイエルの6つの独奏楽器のための協奏交響曲という作品でした。プレイエルはハイドンのかつての弟子だったのですが,ハイドンはこれに対向する形でこの協奏交響曲を作曲し,ザロモン演奏会で初演しました。プレイエルの曲を聞いた後にハイドンが作曲したかどうかは定かではありませんが,お互いに意識しあっていたことは確実でしょう。

この曲は,ヴァイオリン,チェロ,オーボエ,ファゴットを独奏楽器とする協奏曲で初演は大成功でした。主催者のザロモンは自ら優れたヴァイオリン奏者だったと言われていますが,彼が独奏を務めたヴァイオリンのパートは特に華やかに書かれています。独奏チェロにも高音の難しいパッセージが含まれているのはチェロ協奏曲とも共通しています。

第1楽章
協奏的ソナタ形式で書かれています。通常の協奏曲同様,まず,管弦楽による呈示部がありますが,この部分ですでに独奏楽器がソロを演奏します。第1主題はヴァイオリンとフルートで爽やかに呈示されます。その後,ティンパニなどが加わってダイナミックさも見せます。経過部の後,穏やかに下降するような第2主題になりますが,ヴァオリンで演奏された後,独奏楽器によるソロが入るのが特徴的です。経過部の素材による小結尾の後,独奏呈示部になります。

独奏呈示部ではまず独奏ヴァイオリンによって第1主題が演奏されます。これを他の独奏楽器が楽しい会話をするように引き継いで行きます。第2主題は第1ヴァイオリンの細かい音符による伴奏の上に,独奏楽器のいろいろな組み合わせによって呈示されます。

小結尾の後,展開部となります。独奏ヴァイオリンが第1主題を演奏した後,その断片を同窓楽器群が受け渡しながら進んでいきます。次第に短調になって行き,独奏ヴァイオリンと独奏オーボエが第2主題のモチーフを演奏し,緊張感を増して行きます。

再現部もまた独奏ヴァイオリンで始まり,2つの主題が順に再現されます。第2主題による室内楽のようなカデンツァの後,小結尾の素材で軽快に楽章が結ばれます。

第2楽章
ハイドンの交響曲の第2楽章には珍しくソナタ形式で書かれています。弦のピツィカートの独奏の伴奏の上に独奏ヴァイオリンと独奏ファゴットが第1主題を演奏し,これを独奏オーボエと独奏チェロが繰り返します。独奏ヴァイオリンを中心とした経過部に続き独奏チェロによって滑らかに歌われる第2主題が演奏されます。この時,独奏ヴァイオリンは細かい音型で伴奏をしています。

32分音符の音型を独奏楽器で掛け合う部分の後,再現部になります。楽器の使用法が少し違いますが,ほぼ同様に再現されます。

第3楽章
自由なソナタ形式で書かれています。管弦楽による活気のある前奏の後,独奏ヴァイオリンによるレチタティーヴォが出てきます。その後,管弦楽をはさんで,独奏ヴァイオリンによるレチタティーボがさらに高い音で繰り返されます。この辺りの雰囲気は,ベートーヴェンの第9の第4楽章の「オー,フロインデ...」の部分を思わせるところがあります。

その後,独奏ヴァイオリンが前奏と同じモチーフによる第1主題を軽快に呈示します。管弦楽や他の楽器が引き継いだ後,独奏ヴァイオリンによる華やかな経過部となります。独奏ファゴットに受け継がれた後,第2主題になり独奏ヴァイオリンが技巧的なパッセージを演奏します。この主題ど独奏チェロが引き継いだ後,第1主題による小結尾になります。

展開部では独奏楽器が第1主題冒頭のモチーフを扱った後,激しく盛り上がります。その後,独奏楽器群によるやりとりになります。再現部では再度独奏ヴァイオリンによるレチタティーヴォが挿入されます。その後第2主題が再現されず第1主題を中心に曲は進められます。独奏楽器と管弦楽が鮮やかな対比を見せた後,堂々と曲は締めくくられます。(2004/03/28)