ホルスト Holst

■組曲「惑星」op.32
その名のとおり,太陽系にある惑星の名前のついた7つの曲からなるオーケストラと女声合唱のための組曲です。太陽系には9つの惑星があるのですが,何が足りないかわかるでしょうか?それは,地球と冥王星です。ホルストがこの曲を作曲した第1次世界大戦の頃には,冥王星はまだ発見されていなかったのです。ちなみに冥王星が発見されたのは1930年のことです。

曲は,地球から近い順に並んでいます。全体として,映画「スターウォーズ」のサウンドトラックと似たような雰囲気がありますが,これは,ジョン・ウィリアムズの方がこの曲の影響を受けているからでしょう。各惑星には,それぞれ,「〜の神」というサブタイトルがついています。それほど深い意味はないようですが,このサブタイトルを見ながら聞くと曲のイメージが膨らみますので,各曲の解説ととともに紹介しましょう。

火星:戦争の神
全曲に渡り執拗にリズムが繰り返され,それが力を増していく辺りは,ラヴェルのボレロを思わせます(実は,ボレロより先に作曲されています。)。大きく違うのは5拍子だということです。また,冒頭ではコルレーニョという弦楽器の弓の背で弦を叩く奏法が使われています。メロディ自体も無気味ですが,この2つによってさらに不吉な雰囲気になっていると思います。「惑星」の中でいちばんワイルドな曲で,サブタイトルどおり非常に戦闘的です。当然,金管楽器と打楽器が大活躍します。パイプオルガンも動員されているので生で聴くと非常に迫力があると思います。なお,この曲の終結部の雰囲気は,「スターウォーズ」のメインテーマの中間部と非常によく似ています。パクったといわれても仕方がないと思います。

●金星:平和の神
サブタイトルどおり,火星とは対照的な平穏な感じの曲です。冒頭のホルンとフルートの音の後,「ここは宇宙」というナレーションでも入ると,とたんに宇宙に来たような雰囲気になります。この曲の雰囲気も宇宙を舞台としたSF映画音楽に影響を与えていそうです。中間部以降では独奏ヴァイオリンが登場したり,星がきらめくようなチェレスタが出てきたりしますが,ホルン以外の金管楽器はすっかり沈黙しており,全体としてかなり地味な曲となっています。

●水星:翼のある使いの神
星の大きさに比例しているのか,短いスケルツォ風の曲になっています。ここでもチェレスタが活躍します。「翼のある神」だけあって,せわしなく空を飛んでいるイメージがあります。

●木星:快楽の神
木星は,太陽系でいちばん大きい惑星ですが,この組曲の中でもいちばん規模の大きな曲です。楽しげなメロディ,民謡風のメロディなどが次々登場し,楽想が変化に富んでいるので,「惑星」の中でいちばん親しまれています。単独で取り上げられることも多い名曲です。この曲の主な主題は,まず,ホルンで演奏されることが多いので,ホルン奏者にとっては非常にやりがいのある曲だと思います。中間部には,エルガーの威風堂々に匹敵するようなイギリス風の美しいメロディが出てきます。

●土星:老年の神
土星より外は,太陽の光が届きにくくなるせいか,渋い雰囲気になってきます。土星は,「老年の神」だけあって,冒頭からして憂鬱です。しばらくして金管による行進曲風の主題が静かに出てきますが,これが次第に盛り上がり,鐘の音でクライマックスを築いた後,次第に遠ざかるように弱まって行きます。

●天王星:魔術の神
最初に金管で出てくるファンファーレは,何かの呪文をあらわすような雰囲気があります。その後,ファゴットでリズミカルな動機が出てくると,デュカスの「魔法使いの弟子」のような感じになります。続くホルンと弦の強奏もどこかか怪しい雰囲気があります(「タンタンタヌキノ...」と似ているような気がするのですが...気のせいかな?)。その後,チューバで始まる,重々しいけれども躍動感のある主題が出てきます。これが次第に盛り上がり,最後にはオルガンのグリッサンドが出てきて,一段落します。再度冒頭の呪文のような動機が出てきた後,静かにこの曲は終わります。

●海王星:神秘の神
ほとんど全曲が弱音で演奏されます。女声合唱がここに来て初めて登場しますが,歌詞はなく,舞台裏で「あー」と歌うだけです。しかし,美しい弱音で神秘的な感じを出すのは非常に難しいのではないかと思います。この女声合唱に加え,フルート,ハープ,チェレスタといった宇宙空間を表現するのにふさわしいような楽器によって,太陽系の最果ての雰囲気が醸し出されています。最後は,無限に続く太陽系外の宇宙空間に溶け込んでいくように女声合唱がフェードアウトしていきます。(2001/9/11)