細川俊夫 Hosokawa
■庭の歌I
岩城宏之によって委嘱され,1995年に岩城指揮オーケストラ・アンサンブル金沢によって初演された室内オーケストラのための作品です。

とにかく静かな作品です。音が鳴っていないよりも静けさを感じさせてくれのではないか,と思わせる曲です。メロディらしき音の動きはほとんどなく,いろいろな楽器が「キー」「スー」と同一音を伸ばす上に打楽器などが小さく「ゴーン」という感じで重なってきます。その響きは現代的というよりは,どこか神秘的で東洋的なムードがあります。タイトルと考え合わすと,静かな日本庭園にたたずんでいるような雰囲気とも言えます。

全体はヒーリング・ミュージックのような静かな雰囲気で統一されていますが,それでも,曲はいくつか違った気分の部分に分かれます。最初は各楽器が単一音を静かにずっと伸ばすような部分で始まります。時々,鐘の音が静かに入ります。特殊奏法を駆使した管楽器も時々加わるのですが,わざと音程を揺らしているようなところがあり,どこか邦楽器の音のようにも聞こえます。

中間部は「ささやかな嵐」のような部分になります。ところどころ,ドン,ドンという感じで太鼓の音が入っているのですが,あくまでも「庭の中の嵐」という感じです。時々,ピアノの硬質な音も聞かれます。

続いて,さらに室内楽的な雰囲気になります。弦楽器が同じ音型を繰り返し演奏します。その上にピッコロなどが小さく加わってきます。最後は最初と同じような雰囲気に戻ります。軋むような弦楽器の音は虫の声という感じです。何事もなかったような静寂に戻って曲は終わります。

CDでは分かりにくいところもありますが,実演では,客席の方にも弦楽奏者を配置していました。これは楽譜にも記載されているようで,ホール全体を音で包み込もうという意図があります。また,楽譜の最初には「よく歌って,もっとも深く内的な感受性をもって」というベートーヴェンのピアノ・ソナタop.109の冒頭に書かれているものと同じ言葉が書かれています。
(2004/03/12)