カリンニコフ Kalinnikov
■交響曲第1番ト短調

カリンニコフは,つい最近まで,ほとんど無名だったロシアの作曲家ですが,近年,密かに人気を集めています。指揮者のエフゲニー・スヴェトラーノフがこの交響曲第1番をNHK交響楽団と演奏したり,NAXOSレーベルからこの曲のCDが発売された辺りから「静かなブーム」が始まりました。

この曲が人気を集めているのは,哀愁の漂うメロディの美しさと民族的な熱さが共存している点です。カリンニコフは,チャイコフスキーとラフマニノフの間の世代の作曲家ですが,こういった特徴は,彼らとも共通するものがあります。特にチャイコフスキーの初期の交響曲とは似た雰囲気があります。

ただし,カリンニコフが彼らと違うのは,20世紀になったばかりの1901年に34歳の若さで亡くなっている点です。カリンニコフは,才能があったにも関わらず,ずっと病弱で,経済的にも困っていました。チャイコフスキーとラフマニノフの音楽には「大家の音楽」「大人の音楽」という立派さがありますが,カリンニコフの方には,(そう思って聞くせいか)どこか薄幸感と若さとが曲の中に染み込んでいるような切なさがあります。

以前は「隠れた名曲」などと呼ばれていましたが,今では単に「名曲」と呼べば良いでしょう。

第1楽章
何かを物語るようなモノローグ風の寂しさを持った弦楽合奏による第1主題で曲は始まります。第2主題の方は,まずチェロを主体に出てきます。木管楽器による装飾的なリズムを伴った,大変美しいメロディです。しばらくして,このメロディがヴァイオリンに推移していく辺りも美しさの限りです。

これらの主題が組み合わされダイナミックに盛り上がっていった後,対位法的に精緻に展開されて行きます。静かな雰囲気に戻ると再現部になります。楽章の最後は,悲劇的なムードを漂わせて決然と終わります。

第2楽章
ハープを含む弦楽器による繊細で静かな響きで始まります。その後,イングリッシュホルンなどの管楽器がどこか中央アジア的なムードを持ったメロディを演奏します。独特の音色美と牧歌的な雰囲気を持った楽章です。続いて,オーボエにも哀愁と異国情緒を感じさせるメロディが出てきます。ボロディンの「中央アジアの草原にて」を,さらにロマンティックにしてようなメロディが次々と出てくる大変魅力的な楽章です。

第3楽章
軽やかなロシア舞曲風のスケルツォです。若々しい気分があふれています。中間部では,まずオーボエにエキゾティックなメロディが出てきます。他の木管楽器などに引き継がれてリズミカルな雰囲気になりますが,次第に重々しくなってきます。再度,オーボエのメロディが出てきた後,活気のあるスケルツォに戻ります。

第4楽章
これまで出てきたメロディが総まとめのように出て来るロンド楽章です。まず第1楽章冒頭のメロディが鮮烈に出てきます。その後,スケルツォ風のメロディや異国情緒溢れるメロディなどが,次々と出てきて,情熱的で壮麗な盛り上がりを見せます。最後は,チャイコフスキーのバレエ音楽のクライマックスを聞くようなスケールの大きさで全曲が堂々と締めくくられます。(2003/12/14)