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Khachaturian ハチャトゥリアン
組曲「仮面舞踏会」

ソビエト連邦時代に活躍したグルジア共和国出身のアルメニア人作曲家・ハチャトゥリアンの曲には民族音楽の要素をふんだんに取り入れた作品が多いのですが,その中で比較的西ヨーロッパの舞踏音楽の影響が見られるのが,この「仮面舞踏会」の音楽です。

この曲は,ロシアの文豪レールモントフの同名の戯曲に音楽を付けたものですが,現在では,これらを5曲からなる演奏会用組曲に編曲したものがよく知られています。この戯曲は,帝政ロシアの貴族社会の虚偽と腐敗を描いた悲劇ということですが,組曲に入っている音楽は大変親しみやすい曲ばかりで,ロシア国民楽派の伝統を感じさせる音楽として今でもよく演奏されます。特に「ワルツ」は,アンコール・ピースとしてもよく演奏される曲です。

ちなみに,2008年のシーズン,女子フィギュア・スケートの浅田真央選手が,フリー・プログラム用の曲として使用したのがこのワルツです。多くの人にとっては,彼女の2回のトリプル・アクセルとともに記憶に残る曲となりました。

作曲:1939年,組曲への編曲は1943年
楽器編成:フルート2(第2はピッコロ持ち替え),オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット2,トロンボーン3,テューバ,ティンパニ,小太鼓,ウッド・ブロック,シンバル,大太鼓,木琴,鉄琴,弦五部

組曲に含まれる5曲ともオーソドックスな三部形式で書かれています。

第1曲 ワルツ
曲は,いきなり,憂愁に満ちた骨太のメロディで始まります。落日の帝政ロシアの舞踏会といった退廃的なムードを漂わせた後,弦楽器を主体としてメランコリックなメロディをたっぷりと歌い始めます。このメロディの通俗的な感じは,「ドナウ河のさざなみ」などを思わせるところがありますが,たっぷりとした重量感と爛熟した感じは,ハチャトゥリアンならではという感じです。

導入部に続いて,第1ヴァイオリンの演奏するテーマをヴィオラとファゴットがカノン風に追いかけながら始まります。半音の動きを含みながら下降する音型が繰り返されるのが印象的です。もう一つ,別のメロディも出てきますが,メランコリックな雰囲気を保ったまま,流れるように舞踏会は進んでいきます。途中,弦楽器だけではなく,木管楽器が華やかな装飾的なフレーズを演奏します。思い入れたっぷりのリタルダントの後,さらに力を増していきます。中間部は明るい感じのワルツになりますが,その後,前半の暗いワルツが再現されて,曲が終わります。

第2曲 夜想曲
弦楽器と木管楽器,ホルンによって演奏される,夜の静けさを感じさせる曲です。ヴァイオリン独奏がひそやかに歌う,情緒的なメロディが曲の中心です。中間部は,ヴァイオリンのメロディをクラリネットが追うように進んで行きます。

第3曲 マズルカ
全合奏による華やかな序奏に続いて,明るさに満ちたマズルカが始まります。打楽器も加わり,豪快さも感じさせる音楽です。中間部は,木管楽器とヴァイオリンが掛け合いを見せますが,マズルカのリズムは一貫しています。

第4曲 ロマンス
オリエンタルな雰囲気を漂わせた抒情的な音楽です。ヴァイオリンが古代オリエント的な雰囲気を感じさせるしみじみとしたメロディを演奏し,他の楽器へと引き継いでいきます。中間部ではクラリネットがメロディを演奏します。その後,最初の部分が繰り返されますが,ここではトランペットが弱音で歌います。最後は柔らかな雰囲気に包まれて,静かに終わります。

第5曲 ギャロップ
オッフェンバックの音楽などを思い出させる,ユーモアと活気に満ちた音楽です。全楽器によるトレモロの強奏で始まった後,強烈なギャロップのリズムが始まります。木管が演奏するヒステリックに上昇するメロディも特徴的です。それを受ける金管楽器の騒々しい不協和音の合いの手もユーモラスです。

中間部では,トランペットと弦とウッドブロックが楽しげでリズミカルなメロディを演奏します。その後,クラリネットがカデンツァを演奏します。フルートが引き継いだ後,速度を増し,ギャロップが戻ってきます。前半が再現された後,中間部に出てきたメロディが一瞬出てきて,全曲が締めくくられます。 (2009/01/17)