クライスラー Kreisler

ヴァイオリン小品集

クライスラーは,20世紀前半を代表するヴァイオリニスト兼作曲家でした。彼の作品はヴァイオリン・リサイタルのアンコールとして演奏される機会が非常に多く,「クライスラー作品集」といったCDもたくさん録音されています。

クライスラーの曲は次の3つに分類されます。
  • タイプA:ウィーン民謡風の曲
  • タイプB:「〜の主題による」と”編曲”風のタイトルをつけながら実はオリジナルの作品
  • タイプC:ヴァイオリン用の編曲
タイプBについては,クライスラーは「新発見の曲」ということで取り上げていましたので,”偽作者”と呼ばれていたこともあるようですが,これはクライスラー流の洒落だったといえます。

■愛の喜び【タイプA】
次にあげる「愛の悲しみ」と対になっているクライスラーの代表作です。1910年に「古典的手稿」として出版されたシリーズの中の1曲です。作曲した当時は「古いウィーンの舞踏歌」として発表されました。「美しいロスマリン」「愛の悲しみ」とセットで「古いウィーンの舞踏歌」3部作と呼ばれています。いずれも3拍子で書かれています。

この3曲はいずれもよく知られており,ヴァイオリン・リサイタルのアンコール・ピースの定番中の定番となっています。その中でも特に明るく人気のあるのが「愛の喜び」です。冒頭部分の躍動感に溢れた音の動きは,一度聞けば誰でも覚えられる親しみやすさと輝かしさを持っています。

■愛の悲しみ【タイプA】
前にあげた「愛の悲しみ」と対になっているクライスラーの代表作です。感傷的なメロディが連綿と歌われます。レントラー舞曲風の豊かな情緒に満ちた曲です。中間部は「ポコ・メノ・モッソ」になり,少し気分が明るくなります。このメロディも大変美しいものです。

■前奏曲とアレグロ(プニャーニの形式による)【タイプB】

「ミーシーミーシ」というちょっと深刻な上下動で曲は始まります(そのため,この曲はヴァイオリン教室では「ミシミシ」と呼ばれていそうです)。この重い雰囲気の前奏曲の後,速い音の動きのあるアレグロの部分に入っていきます。

5分ほどの曲ですが,大変密度の濃い立派な作品で,クライスラーの曲の中でも特に聞き応えのある作品となっています。ちなみにプニャーニというのは18世紀に活躍したイタリアのヴァイオリニスト兼作曲家です。クライスラーのこの”編曲”がいちばん知られた作品かもしれません。

(参考文献)ヴァイオリン/チェロの名曲名演奏:弦楽器の魅力をたっぷりと/渡辺和彦著.(ON Books).音楽之友社,1994

(2004/03/09)