ラロ Lalo

■スペイン交響曲ニ短調op.21 Symphonie espagnole
この曲はスペイン系フランス人作曲家ラロの代表作としてよく知られています。曲はラテン的な気分に溢れた親しみやすいヴァイオリン協奏曲なのですが,なぜか曲のタイトルには「交響曲」という言葉が入っています。この曲のCDを探す時はヴァイオリン協奏曲のコーナーを探す必要がありますのでご注意下さい。ラロはこの曲を作曲する前にヴァイオリン協奏曲を1曲作っていますので,実質はヴァイオリン協奏曲第2番ということになります。ラロは,このスペイン交響曲以外にノルウェイ幻想曲,ロシア協奏曲など同じような発想でタイトルが付けられたヴァイオリン協奏曲を作曲しているということなので,この「交響曲」というタイトルについても「ラロの趣味」と言えそうです。

曲は5楽章からなっていますので,普通の協奏曲とは違うといえば違うのですが...やはりこの曲はヴァイオリン協奏曲です。その名のとおり,全編に溢れるスペイン風のエキゾティックなメロディ,リズムが大変魅力的です。

この曲はスペインの名ヴァイオリニスト,サラサーテに献呈され,1875年に彼によって初演されています。この時期,フランスでは二度万国博覧会が行われ,異国趣味に対する関心が非常に高まっていました。そういう状況の中,サラサーテとラロとの親交によって生まれたのが,エキゾティックなスペイン情緒に溢れたこの曲です。

第1楽章
ソナタ形式で書かれた,充実感のある楽章です。冒頭いきなり「ダンダン,ダー,ダダダ,ダーン」と,この楽章全体の基礎となるような力強いモチーフがオーケストラに出てきます。この部分は一度聞いたら忘れられないようなダイナミックな印象を聞き手に与えてくれます。

これを独奏ヴァイオリンが華麗に受け,同じモチーフを弾き始めます。しばらくオーケストラだけの部分が続いた後,独奏ヴァイオリンによって,このモチーフがより完全なメロディとなった第1主題が呈示されます。その後,3連符を含む叙情的な美しい歌に満ちた第2主題が続きます。この2つの主題が華々しく展開されたり,短調になったりした後,非常に甘いメロディが独奏ヴァイオリンに出てきて,冒頭の動機が再現します。その後,展開部になります。

展開部はヴァイオリンの技巧とオーケストラが絡み合うようにして始まります。3連符の連続の華々しい部分の後,ヴァイオリンのカデンツァが出てきて,再現部になります。再現部は,ほぼ規則どおり作られています。ここでは,第2主題はニ短調になります。

最後,第1主題をもとに作られた華やかなコーダとなり,管弦楽の強奏で力強く結ばれます。この楽章は,かなり自由に展開されていますが,基本的にはハバネラの気分を持った楽章となっています

第2楽章
3部形式で書かれたスペイン情緒に溢れた楽章です。ホタというスペインの民族舞踊のような趣向が凝らされています。まず,弦楽器の弱音のピツィカートで始まった後,全楽器のフォルティシモで強いアクセントを持つ動機が出されます。このスペインの踊りを思わせるオスティナート・リズムの上で,独奏ヴァイオリンが息の長い官能的なメロディ演奏します。このメロディは次第に技巧的になっていきます。

中間部はテンポが遅くなり,独奏ヴァイオリンが寂しげな主題を演奏します。それをオーケストラが最初のテンポで受けるというパターンが繰り返されます。短いカデンツァの後,最初の部分に戻り,楽章が結ばれます。

第3楽章
インテルメッツォと題された,3部形式による間奏曲です。ゆったりとしたハバネラで,スペイン風の色合いの中に物憂げな魅力が溢れている楽章です。オーケストラがフォルティシモで勢いの良いリズムを演奏した後,三連八分音符を含むぎこちないハバネラのリズムを持った序奏が続きます。その後,独奏ヴァイオリンがひきずるような主題を演奏し,さらにスペイン情緒を盛り上げてます。

オーケストラのユニゾンで一区切りがつけられた後,6/8拍子の中間部になります。この部分では,独奏ヴァイオリンによる華々しい技巧的なパッセージが聞き所です。その後,最初の部分に戻ります。楽章の最後では,独奏ヴァイオリンと弦楽器による弱音のピツィカートに続いて,フォルティシモの和音が演奏されて締められます。

この楽章は,初演者のサラサーテがカットしたこともあり,慣習的に省略されることがありますが,切るには惜しい楽章です。

第4楽章
3部形式による幻想曲風の緩除楽章です。オーケストラによる哀愁を帯びた重厚な序奏に続いて,独奏ヴァイオリンがセンチメンタルなメロディを歌い始めます。オーケストラがフォルテで演奏した後,気分が変わり,独奏ヴァイオリンに民謡風の甘いメロディが強い音で出てきます。これが展開されて,美しい頂点が築かれます。

その後,カデンツァとなり,最初の部分が短縮されて再現されます。ここでは独奏ヴァイオリンは1オクターブ低く歌われ,静かに結ばれます。この楽章は,情緒豊かで甘美な世界ですが,スペイン的な色彩はそれほど濃いものではありません

第5楽章
ロンド形式によるフィナーレです。ヴァイオリンが名人芸を駆使して,華やかに活躍する楽章です。古典的なロンドとは違い,簡単な展開をはさみながらロンド主題が何回も繰り返される形を取っています。

鐘の音を思わせるような管弦楽の序奏の後,その機械的なリズムの上で特徴のある動機がファゴットなどよって執拗に繰り返し演奏されます。この動機は,いろいろな楽器を加えながらピアニシモからフォルテへ盛り上がり,そしてまたピアニシモに静まります。続いて出てくるロンド主題は,軽快にはずむようなもので,独奏ヴァイオリンによって多彩な表情を持って展開されながら,何回も何回も演奏されます。この主題は「エル・プント・デ・ラ・アバナ(ハバナのプント)」という民謡に基づいているとのことです。オーケストラの方は一度だけロンド主題をフォルティシモで演奏しますが,それ以外は独奏ヴァイオリンの独り舞台です。

途中,管弦楽が強いリズムで前奏を演奏した後,独奏ヴァイオリンが新しい表情豊かなメロディを演奏します。段々と優雅なハバネラ風の気分になってきます。その後,長いトリルに続いて,再度,ロンド主題が戻ってきます。華々しく高潮した後,息もつかせずコーダに入ります。独奏ヴァイオリンが華々しくソロを演奏した後,全オーケストラによるニ長調の主和音で全曲が結ばれます。(2005/09/03)