メンデルスゾーン Mendelssohn

■交響曲第3番イ短調op.56「スコットランド」

メンデルスゾーンの書いた交響曲の中では,第4番「イタリア」と並んで有名な作品です。番号的には,「スコットランド」が第3番となっていますが,完成したのはこちらが後です。第5番「宗教改革」はさらに若い時に作曲されていますので,実質,メンデルスゾーンの最後の交響曲ということになります。作曲に着手してから,完成するまでに10年以上かかっているだけあって,メンデルスゾーンのオーケストラ作品を代表する名曲となっています。

この曲は,メンデルスゾーンがスコットランドを訪れた時の印象からインスピレーションを得て,作曲したものです。4楽章形式を取っていますが,全曲は続けて演奏されるようになっています。

第1楽章
この楽章は,緩やかな序奏とアレグロの主部からなっています。

曲は,暗い北国的な雰囲気から始まります。これは,エディンバラにあるメアリー女王の旧居城ホリルードからインスピレーションを得た楽想と言われています。しばらくすると弦楽器で流れ落ちるような美しいメロディが出てきます。この序奏部分は,オーケストラの各楽器の音色の美しさを堪能できる部分です。

アレグロの部分となり,テンポは速くなりますが,気分的にはメランコリックなムードが続きます。この第1主題は,序奏部分のメロディから出てきているものです。切迫したように次第に盛り上がって行きます。その後,クラリネットに第2主題が弱く出てきます。第1主題の上に乗ったような形ですので,それほど目立ちません。下降する訴えかけるような淋しげなメロディが切々と出てきて,呈示部が終わります。

展開部は,比較的静かに転調を繰り返しながら,呈示部の主題を扱っていきます。チェロに息の長い旋律が出てきた後,再現部に入っていきます。再現部では,2つの主題が出てきた後,うねるように盛り上がるコーダになります。その後,序奏のゆっくりした部分が再度登場して,静かに終わります。

第2楽章
せわしない弦の刻みの上に,クラリネットが個性的で印象的な主題を演奏します。このメロディは,「ドレミソミレドレ」といわゆる「ヨナ抜き(四七抜き)」の5音階で出来ており,スコットランド民謡的な味があります。日本の演歌などにも「ヨナ抜き」の曲は多いので,このメロディなどは日本人にはとても親しみのもてるものだと思います。この楽章は,このメロディをいろいろな楽器で次々と引き継いでいく,スケルツォ風の楽章になっています。続いて,スタッカートで第2主題がひっそりと出てきます。展開部でも,転調をしながら同じ勢いで第1主題→第2主題の順にメロディが出てきます。再現部では第2主題はダイナミックに登場します。この楽章はソナタ形式ですが,2つの主題が交互に出てくるような形を取っています。

第3楽章
この楽章も,2つの対照的なメロディが交互に出てくるソナタ形式になっています。

厳かな序奏に続いて優しい表情のメロディが出てきます。ピツィカートの上に弦楽器が美しいメロディを歌います。続いて,葬送行進曲風の第2主題が出てきます。ホルンの刻む「ターン,タータ」というリズムが印象的です。これが次第に盛り上がって,戦闘的な気分になります。第1主題のメロディが出てきた後,短い展開部になります。ここではホルンのリズムと続いて出てくる3連符が特徴的です。

再現部でも,この2つの主題が交互に出てきます。第2主題のリズムがティンパニに出てきた後,第1主題が滑らかに出てきて,静かに楽章を閉じます。

第4楽章
イ短調からイ長調への転換が目覚しい効果を上げる楽章です。2つの部分からなっています。

最初のイ短調の部分は,激しいリズムが貫くソナタ形式です。前楽章とは打って変わって力強い雰囲気になります。特徴のあるリズムの経過部の主題が出た後,木管楽器に第2主題が出てきます。何となく,1楽章を思い出させるような主題です。再度,弾むようなリズムが出てきて,展開部に移っていきます。第1主題が転調を繰り返した後,対位法的な展開になります。第2主題が展開された後,再現部になります。ここではかなり縮小された形で再現されます。今までの激しいリズムが次第に弱まった後,全休止になります。

この後が,この曲の壮大なクライマックスになります。テンポを落としてイ長調,6/8拍子の流れるような主題が堂々と出てきます。この主題の登場は非常に鮮やかで,曲の雰囲気が一転します。スケール感とともにすがすがしさをたたえたメロディです。感動を秘めたまま,堂々と全曲が締めくくられます。

(追記)
ちなみに指揮者のオットー・クレンペラーは,この曲の最大の聞き所ともいうべき,第4楽章のコーダをカットしてしまい,自分で作曲した短調のコーダを付けています。このコーダ自体,言われてみると少々取ってつけたように明るくなるところがありますので,クレンペラーのアイデアもわからないではないのですが...これは中々勇気のいるアレンジだと思います。(2003/02/25)