メンデルスゾーン Mendelssohn

■ヴァイオリン協奏曲ホ短調,op.64

全ヴァイオリン協奏曲中,恐らくもっとも有名な曲でしょう。特に哀愁漂う第1楽章第1主題は,全クラシック音楽を象徴するほど親しまれているのではないかと思います。その他の楽章も親しみやすい歌と明朗さに溢れています。「メンコン」と略されることもあるこの曲ですが,実は,メンデルスゾーンは別にもう1曲ヴァイオリン協奏曲ニ短調を書いています。この曲は20世紀になって発見されたメンデルスゾーンの若書きの曲です。通常ならば,第1番,第2番と呼ばれそうなものですが,ホ短調の方があまりにも有名になったため,今更「第2番」と呼ぶのも心苦しいのかもしれません。

この曲は,ベートーヴェン,ブラームスのヴァイオリン協奏曲と並んで三大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれる曲です(ブラームスの代わりにチャイコフスキーを入れる説もあり。「4大」にすれば迷わずに済みます)。他の曲に比べると少々小振りですが,ヴァイオリニストの負担は同等,またはそれ以上のようです。聞けば分かるように,3楽章続けて休みなく演奏されます。技巧的にも華やかですが,それ以上にヴァイオリンの登場する部分が非常に多いのが大変なところです。ほとんど弾きっぱなしの曲です。協奏曲の第1楽章には通常あるオーケストラだけの主題呈示部がないのが,その理由です。また,あまりに有名曲なため,「ミスすると誰もがわかる」というプレッシャーもあるようです。

演奏会で取り上げられる回数やCDの数も非常に多く,クラシック音楽の入門には最適の曲と言えます。

第1楽章
オーケストラによる,たった2小節の序奏に続き,有名な第1主題がソロヴァイオリンに出てきます。この「序奏がたった2小節」というのは,当時は結構斬新なことだったようです。この第1主題は,先にも書いたように,非常に親しまれているものです。哀愁を帯びたちょっと感傷的なメロディは特に日本人好みなのではないかと思います。センチメンタルながらも率直に切り込んで来る辺りが,この曲のわかりやすさの理由です。オーケストラと対話をしながら華麗に弾き進んで行きます。第2主題は,少々テンポを落として優しく慰めるように,そしてロマンティックな憧れを漂わせながら歌われます。

展開部は,第1主題を中心に扱われます。再現部に入る前に,情熱的なカデンツアが置かれているのもこの曲の特徴です(通常は再現部の後に置かれます)。しかも,ソリストの自由に任せるのではなく,すべて楽譜に書かれています。メンデルスゾーンは,保守的に見えるのですが,この曲では,あれこれ斬新なことを行っています。再現部の後は情熱的な終結部になりますが,ファゴットだけが取り残されるようにブリッジとして引伸ばされ,そのまま第2楽章に移って行きます。

第2楽章
この楽章は3部形式で書かれています。オーケストラの繊細な伴奏の上に,ソロ・ヴァイオリンによる抒情的な歌が出てきます。まさに「青春の歌」という感じのシンプルで瑞々しい歌の美しさは,メンデルスゾーンならではです。中間部は対照的に短調に変わります。曲はそのまま,第3楽章になります。

第3楽章
前楽章から続く,ソロ・ヴァイオリンによるレチタティーヴォ的な序奏の後,ファンファーレと共に,主部に入って行きます。「夏の夜の夢」の音楽に共通するような軽快さに溢れた,楽しい楽章です。掛け込んで来る様に出てくる第1主題,華やかな花が開くような第2主題ともに躍動的です。この2つの主題が競い合うように,輝きを持って流れ進んでいきます。再現部では,ソロ・ヴァイオリンに絡む,対旋律の美しさも聞きものです。最後は,ソロとオーケストラとが一体となって華やかなクライマックスを築きます。(2003/05/03)