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モンテヴェルディ Monteverdi
歌劇「オルフェオ」 Orfeo
現在でも演奏される機会のある最古のオペラがこの「オルフェオ」です。羊飼いやニンファが登場する牧歌劇の伝統を受けついた音楽寓話劇(Favola in Musica)で,ギリシャ神話に出てくる「オルフェオとエウリディーチェ」を描いた作品です。このお話については,グルックもオペラを作っていますが,モンテヴェルディの「オルフェオ」は,それよりも100年以上前の1607年頃に初演されています。オペラの黎明期であるバロック・オペラを代表する作品です。当時としては,異例なほど綿密に記入された楽譜によって伝えられている点も大変貴重な作品です。

この作品は,メディチ家が後援しているマントヴァの知識人の集まりアカデーミア・デリ・インヴァギーティによって委嘱されて作られました。初演は,劇場ではなく,マントヴァ公爵邸の中の回廊のような場所で行われたと言われています。

この作品の特徴は,次のとおりです。
  • 雄弁な器楽アンサンブルの使用
  • 通奏低音楽器の精密な使い分け
  • 古代ギリシャのコロスを思わせる合唱
  • 有節形式さえ取り入れた多彩な独唱
  • 天→地上→冥界→地上→天と異次元を循環する場面構成
  • いくつかの楽想を意味深く再帰させる音楽構成
  • インテルメティオの伝統に即した舞台効果 

台本:アレッサンドロ・ストリッジョ(イタリア語)
作曲:1606〜1607年
初演:1607年2月22日マントヴァ,ドゥカーレ宮殿
主要登場人物:
  • オルフェオ(テノール):太陽神アポロと芸術の女神カリオペの間の息子
  • エウリディーチェ(ソプラノ):オルフェオの美しい妻。蛇にかまれて死亡
  • 音楽の精(ソプラノ)
  • 女の使者(ソプラノ)
  • プルトーネ(バス):黄泉の国の王
  • プロセルピナ(ソプラノ):その妻
  • 希望(メゾソプラノ):
  • アポロ(テノール)
  • カロンテ(バス):三途の川の渡し守
  • こだま,ニンファ,妖精たち,羊飼いたち

全曲は,プロローグと5幕からなっています。

●プロローグ
音楽の精が現れ,これからオルフェオの物語が始まると告げます。この部分は,リトルネッロ形式になっており,器楽のみによる決まったリトルネットのメロディが間奏のようにして,歌の間に何度も出てきます。オルフェオの歌は獣の心も捉え,地獄もその願いを聞くと歌います。

●第1幕
野原にニンフや牧人たちが集う場です。牧人が歌った後,エウリディーチェとオルフェオの婚礼を祝う合唱「来て下さい,婚礼の神よ,来て下さい(Vieni Imeneo, den vieni)」となります。ニンファの歌の後,「山々を離れ(Lasciate i monti)」で始まる楽しげな合唱と踊りになります。

オルフェオは,「天上のバラ,地上の命である太陽よ(Rosa del Ciel, vita del mondo)」と彼女のために自分がどれだけ幸せかを歌います。エウリディーチェもそれにこたえます。

再度,「山々を離れ」の合唱が歌われた後,牧人たちは,神に末永い幸いを祈り,最後は喜びの合唱となります。

●第2幕
器楽のみによるシンフォニアの後,野原でオルフェオとニンフたちが楽しく歌い踊っている場になります。そこに使者が来て,「ああ痛々しいできごと,ああ忌むべき過酷な運命よ(Ahi caso acerbo, ahi fat'empio e crudel)と花を摘んでいたエウリディーチェが毒蛇にかまれて死んだという悲しい知らせを告げます。悲嘆にくれたオルフェオは,「私の生命である女よ,君が死んでしまったのに,私は生きているのか?(Tu se' morta, se' morta mia vita, ed io respiro?)」とエウリディーチェを連れ戻そうと自分も冥界に赴こうとします。その後,「ああ痛々しいできごと」と過酷な運命を悲しむニンフと牧人たちの合唱で締められます。

●第3幕
器楽のみによるシンフォニアの後,まず,オルフェオと希望の精によるやり取りとなります。オルフェオは冥界にやってきましたが,それをカロンテが「ああ,死んでもいないお前が...(O tu ch'innazi morte)」と阻みます。得意の歌で切り抜けようとするオルフェオが絶望したとき,カロンテが眠り込み,オルフェオは三途の川を下ります。亡霊たちの合唱が,どんな企みも人間に対してはむなしいと讃えます。

●第4幕
冥界の宮殿で,オルフェオの愛と歌に心を動かされた女王プロセルピナの求めで,王プルトーネは妻を連れ戻す許しをオルフェオに与えます。その条件は「地上に戻るまで決して振り返らないこと」だったのですが,オルフェオは,背後で聞こえる大きな物音に反応し,「ああ,限りなくやさしい瞳,私はまたお前を見るのだ(O dolcissimi lumi io pour vi veggio)」とその条件を破ってしまいます。エウリディーチェは,「あまりに強い愛ゆえに私を失うのか(Ahi vista troppo dolce e troppo amara)」,と悲しみつつ引き戻されます。最後,オルフェオは「地獄には打ち勝ったが,自らの情に負けた」という合唱となります。

●第5幕
プロローグのリトルネッロのメロディが戻ってきた後,緑の野辺のシーンに戻ります。妻を連れ戻せなかったオルフェオは涙に暮れて,放心してます。この部分では,オルフェオの言葉を繰り返す,こだまが出てきます。シンフォニアの後,オルフェオをあわれんだ父アポロが登場し,息子を天に召すことにします。父と子が歌いながら天上に上って行った後,「行け,オルフェオよ,幸せに満ちて(Vanne Orfei felice a pieno)」の合唱となり,最後はモレスカという舞曲で締めくくられます。

なお,このエンディングについては,バッカスの巫女が出てくるものとアポロが出てくるものの2種類があるとされていますが,現在ではハッピーエンドの「アポロ型」が一般的です。「バッカス型」では,バッカスがオルフェオを八つ裂き(!)にするというものです。

(参考文献)
オペラのすべて2001(ONTOMO MOOK).音楽之友社
オペラ・オペレッタ名曲選(増補版).音楽之友社
CD「オルフェオ」(フィリップ・ピケット指揮ニュー・ロンドン・コンソート他)の解説よるもの)(2006/12/09)
(2006/12/09)