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モーツァルト Mozart
2台のピアノのためのソナタニ長調,K.448(375a)
1871年11月ウィーンのアウエルハンマー邸で行われた音楽会のために作曲された2台のピアノのためのソナタです。モーツァルトは,ピアノ連弾用のソナタは数曲書いていますが,2台のピアノのためのソナタはこの1曲だけです。

初演は,モーツァルト自身とヨーゼファ・アウエルハンマーによって行われています(モーツァルトは第2ピアノを担当したようです)。このアウエルハンマー嬢は,モーツァルトのピアノの高弟で大変優れたピアニストだったと言われています。彼女は,モーツァルトに首ったけで,当時「モーツァルトと彼女が結婚する」との噂がたったとのことですが,モーツァルトの方にはその気はなく,あれこれ彼女の容姿を罵倒していたようです。ちなみに,その後,別の弟子とも演奏したという記録も残っています。

この曲は,2台のピアノの特性を生かした華麗な作品ですが,音楽評論家のアインシュタインが「もっとも熟した作品」と評しているように,娯楽性だけでなく,深みを伴った作品となっています。

ちなみにこの曲は,1990年代に,権威のある科学雑誌「Nature」に「聞けば集中力が高まる曲」として紹介されてから,「頭のよくなる曲」として”その手”のCDにもよく収録されています。また,マンガ「のだめカンタービレ」の最初の方で主人公ののだめと千秋とが初めて連弾を行った曲としても印象的に使われています。というわけで,この数年,いろいろな意味でもっとも注目を集めているモーツァルト作品と言えます。

第1楽章 ニ長調,アレグロ・コン・スピーリト(生彩を持って),4/4,ソナタ形式
曲は,2台のピアノのフォルテのユニゾンで力強く始まります。ただし,この豪快な主題は,モーツァルトのオリジナルではなく,尊敬していたJ.C.バッハから借用したもののようです。華々しい経過部の後,優雅な第2主題が第2ピアノによって提示されます。2台のピアノが,このメロディの掛け合いを行った後,再度華やかな経過部になります。第2ピアノに支えられた第1ピアノが結尾主題を演奏した後,提示部が輝かしく結ばれます。

続く展開部は簡略にとどめられています。また,ここでは,呈示部で出てきた主題ではなく,いきなり新しい主題が出てきます。強弱の起伏の激しい展開の後,再現部となります。型どおり再現された後,コーダでは,展開部に出てきた新しい主題が再現され,華やかに楽章が閉じられます。

第2楽章 ト長調,アンダンテ,3/4,ソナタ形式
ギャラントな旋律美をたっぷりと楽しませてくれる穏やかな楽章です。第1主題が第1ピアノの右手で提示された後,経過部を経て第2主題部に入ります。第2ピアノが第1ピアノに1小節遅れてついていき,絶妙の美しさを感じさせてくれます。

展開部は,この楽章でも短いもので,しかも新しい音型が使われています。再現部は第1,2ピアノの役割が逆になったり一部省略されている部分がある以外は呈示部と同じものです。最後は美しいコーダで楽章が閉じられます。

第3楽章 ニ長調,モルト・アレグロ,2/4,ロンド形式
有名な「トルコ行進曲」の主題をひっくり返したような感じの愛嬌のあるロンド主題が繰り返し演奏され,明るさを盛り上げていく楽章です。ロンド主題の間には2つのエピソードが挿入されています。

第1エピソードはイ短調で演奏された後,トリルを伴ったフェルマータが入り,イ長調の最弱奏で別の性格を持った主題が演奏され,長いパッセージに移っていきます。ロンド主題に続いて出てくる第2エピソードは,2つのピアノが掛け合いをする楽しげなもので,ト長調で演奏されます。その後,第1エピソードがニ短調で再現した後,再度ロンド主題となり,華麗なコーダで全曲が締めくくられます。
(2007/01/27)