モーツァルト Mozart

■歌劇「後宮からの逃走」の音楽(管楽合奏版)K.384(J.N.ヴェント編曲)

CDやレコードのなかったモーツァルトの時代,オペラというのは王侯貴族が中心となって楽しむもので,庶民は気軽に楽しむことができませんでした。そこで出てきたのが,オペラの聞き所を気軽に楽しめるように管楽合奏用に編曲したものです。この編曲は大変儲かる仕事だったらしく,モーツァルト自身父親宛の手紙の中で「早く編曲しないと他の人が儲けてしまう」などと書いています(著作権が確立している現在では有り得ない話ですが)。

この歌劇「後宮からの逃走」の管楽合奏版はモーツアルトと同時代のヴェントという人が編曲したものがよく知られており,現在でも演奏されています。この管楽合奏というスタイルは18世紀から19世紀にかけて,ウィーンやチェコを中心に盛んだった「ハルモニームジーク(Harmoniemusik)」と呼ばれるものです。オーボエ,クラリネット,ファゴット,ホルンが2本ずつ入った八重奏です。低音を補強するためにコントラファゴットやコントラバスが加わることもあります。ちなみに,モーツァルトが作曲しているセレナードの中にもこういう編成によるものがいくつかあります(グランパルティータと呼ばれる曲がいちばん有名です)。。

この「後宮からの逃走」は18世紀のトルコを舞台としたドイツ語オペラです。海賊にさらわれトルコ太守に売られたコンスタンツェと彼女を救いに来るベルモンテを中心としたお話です。コンスタンツェを自分のものにしようとするトルコ太守セリムは最後には度量と慈悲を示すことになります。この曲はドイツ語による歌芝居(ジングシュピール)からドイツ・オペラへの道を確立した作品といわれています。

この編曲版では次のように,オペラの曲順とは少し違った順序で演奏されます。
  1. プレスト(序曲)
  2. アンダンテ(お前とここで会わねばならぬ(第1幕,ベルモンテ))
  3. アレグロ−アンダンテ−アレグロ・アッサイ(あれは行くが/おお,イギリス人よ/そうせきたてなくとも(第2幕,ブロントヒェンとオスミン))
  4. アンダンテ・グラツィオーソ(うれしがらせて(第2幕,ブロントヒェン))
  5. アダージョ(喜びの涙が流れるとき(第2幕,ベルモンテ))
  6. アレグロ(ああ,どんなに勝利を望んだことか(第3幕,オスミン))
  7. アレグロ(大きな喜びに(第2幕,ブロントヒェン))
  8. アレグレット(太守セリムをたたえよう(第3幕,フィナーレ)
(2003/12/13)