モーツァルト Mozart

■歌劇「フィガロの結婚」K.492

モーツァルトの作品のみならず,すべてのオペラの中でもっとも親しまれているオペラの一つです。親しみやすいメロディが全編に溢れ,歌詞がわからなくても幸福感に満たされるような傑作です。ただし,物語の内容はかなり複雑です。原作はボーマルシェの同名の喜劇ですが,オペラの台本はダ・ポンテがイタリア語で書いています。ロッシーニのオペラ「セヴィリアの理髪師」の後日譚で,登場人物も共通しています。この作品はフランス革命前夜に書かれており,原作の方は上演禁止になったほど反体制的な内容ですが,モーツァルトのオペラの方は,その点はちょっと薄められています(この辺の皇帝ヨーゼフ2世とのやりとりは映画「アマデウス」の中にもちょっと出てきています)。

「フィガロの結婚」は,「セヴィリアの理髪師」でめでたく結ばれたアルマヴィーヴァ伯爵とロジーナ夫妻が倦怠期をどう克服するかという点と「町の何でも屋」フィガロとスザンナが結婚するまでのドタバタが物語の中心です。彼らにケルビーノ(小姓),バジーリオ(音楽教師),バルトロ(医師)といった脇役が絡んできます。歌舞伎によくあるように「実ハ」という設定が出てきて,最後は丸く収まるのですが,「狂おしき1日」というサブタイトルがあるとおり,沢山の人物がめまぐるしく登場しますので,観る前にある程度,人物関係を理解しておいた方が楽しめるでしょう。これらの登場人物の繰りひろげる重唱が最大の楽しみになります。

序曲
モーツァルトのオペラの序曲中,最も有名なものです。非常によく出来た曲です。時間的にも4分ほどですので,アンコール・ピースとしてもよく使われます。曲は短いながらもソナタ形式で出来ています。まず,開演前のお客さんのざわめきのような感じの第1主題が弱音で出てきます。この「ザワザワ」が出てきた瞬間,「フィガロだ」と誰もが分かってしまうような見事な出だしです。音階を上って降りるだけのような動きなのですが,非常にわくわくとさせてくれる部分です。しばらくするとフォルテで元気よく爆発します。経過的な部分も魅力的な旋律が続きます。第2主題は,対照的にのんびりとした感じで第1ヴァイオリンとファゴットによって演奏されます。音階的な動きと同音反復が組み合わさっているというのはモーツァルトのメロディによくあるものです。この後は,展開部というよりは「つなぎ」のような感じの部分になります。再度,第1主題と第2主題が繰り返されたあと,コーダが続き,元気よく結ばれます。この序曲には,本編の中のメロディが全く出てきませんが,まさにこのオペラ全体の顔になっているような見事な曲です。