モーツァルト Mozart

■フルート協奏曲第1番ト長調,K.313
モーツァルトがオランダのフルート愛好家ド・ジャンという人の依頼で書いた2曲のフルート協奏曲のうちの1つです。ド・ジャンは,「やさしいフルート協奏曲3曲とフルート四重奏曲を2曲を200フローリンで」という注文を出したのですが,モーツァルトが作曲したのは「2曲のフルート協奏曲と3曲のフルート四重奏曲」でした。しかも第2番の協奏曲の方は,オーボエ協奏曲の編曲という「手抜き」でした。「ド・ジャンは,200フローリンではなく,96フローリンしか支払っていない!」とモーツァルトは不満を述べているのですが,手抜きをしたモーツァルトの方にも問題はありそうです。いずれにしても,モーツァルトの作曲したオリジナルのフルートはこの第1番だけということになります。

モーツァルトは,このような作曲の事情を見ても(旅先でお金に困っていたモーツァルトがその報酬にひかれて作曲したようです。この200フローリンというのは,相当の高額です)フルートが嫌いだったことが分かりますが,その言葉に反するかのように曲全体は明るく伸びやかな作品となっています。この2曲は現代でもフルート協奏曲の代表作として重要なレパートリーとなっています。

ド・ジャンはアマチュア演奏家にしては優れたフルート奏者だったようですが,この曲の2楽章は非常に幻想的で,ド・ジャンの手に負えないものになりました。モーツァルトはその代わりとなる曲も1曲書いています。その曲が,「フルートのためのアンダンテハ長調」です。モーツァルト自身,この曲を第2楽章の代用に演奏するように書き残しています。
こういった点から考えて,ド・ジャンのためではなく,マンハイムの宮廷楽団のフルート奏者でモーツァルトの親友だったヴェンドリングを想定して書いた曲なのではないか,とも言われています。「易しい曲を」と依頼されたのに「難しい曲」書いてしまったり,報酬が減らされたのも当然といえば当然なのかもしれません。

第1楽章
協奏風ソナタ形式で書かれています。冒頭,弦楽器でいきなり出てくる第1主題は,堂々とした雰囲気を持っています。これが弱音で繰り返された後,第2主題が出てきます。こちらの方は弱音で柔らかく演奏されます。短い小結尾のフレーズが出た後,独奏フルートが入ってきます。

ここでは第1主題に続いて,ホ短調のメロディが入り,華やかなパッセージが続きます。その後,第2主題が出てきます。第1主題の音型に基づいたコーダで呈示部は締められます。

展開部は,まず,このコーダの部分の速いパッセージをフルートが受け継ぎます。その後も独奏フルートの技巧を誇示する部分が続きます。

再現部では,第1主題がフルートによって装飾されて出てきます。呈示部でホ短調で出てきたパッセージはハ長調に移調されています。第2主題が高い音で再現された後,カデンツァになります。その後,呈示部のコーダの音型で結ばれます。

第2楽章
ソナタ形式で書かれていますが,かなり幻想的な雰囲気を持っています。弱音器付きの弦楽器とホルンが導入の音型を演奏した後,フルートとヴァイオリンによって,味わい深い第1主題が演奏されます。再度,楽章冒頭の導入音型が出てきた後,第1主題が登場し,それに続いてイ長調の第2主題が出てきます。この辺ではフルートとヴァイオリンの掛け合いになります。

展開部は9小節と短く,第2主題の変形されたものです。再現部は型どおりで,カデンツァの後,再度第1主題が出てきて楽章を閉じます。この楽章の2つの主題はいずれも抒情的に歌う旋律です。ゆったりとした気分の中に豊かな幻想味が漂います。

第3楽章
ロンド楽章ですが,メヌエット的な優雅な気分もあります。楽章全体としては明るく喜々としたフィナーレとなっています。

楽章の最初から独奏フルートが登場し,メヌエット風のロンド主題を呈示しっます。これをオーケストラがフォルテで繰り返します。その後はいくつかの副主題がロンド主題に間に挟み込ます。時折,短調になりますが,メロディが次々沸いて出てくるような楽しさのある部分です。最後,独奏フルートによる技巧的な部位分が出てきた後,オーケストラが繰り返し,全曲が結ばれます。(2005/09/11)