モーツァルト Mozart

■ミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」K.317
モーツァルトの宗教曲といえば,最晩年に作曲されたレクイエムが有名ですが,この曲は未完成で,モーツァルト以外の人によって完成された曲ですので,モーツァルト自身が完成させた宗教曲では,この戴冠式ミサがいちばん有名ということになります。この曲がなぜ「戴冠式ミサ」という名前で呼ばれるかについては,はっきりしていないのですが,ザルツブルク大聖堂で行われた復活祭の式典のために作曲され,その後,レオポルト2世の戴冠式で演奏されたことに由来すると言われています。

曲は,30分ほどの長さで,演奏会で聴くには手頃な長さです。全曲は,6つの部分からなっています。この6つの部分は,通常のミサで歌われる基本的なもので,ミサと名の付く曲に共通するものです。歌詞はすべてのミサに共通するもので,ラテン語で歌われます。

全曲は,ほとんどハ長調で書かれています。ジュピター交響曲と同じ調性ということで,明るく堂々とした雰囲気があります。その一方,ソロ歌手が歌うオペラ・アリアのようなメロディも随所に出てきて,全体として親しみやすい雰囲気もあります。編成は,どういうわけかヴィオラ抜きなのですが,トロンボーンやオルガンなども入っています。歌の方は,4部合唱及びソプラノ,アルト,テノール,バスの独唱という編成になっています。

キリエ いきなり序奏なしで,合唱が「キーリエ」と歌い始めます。しばらくすると,テンポが速くなり,ソプラノ・ソロがメロディアスに歌い始めます。モーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」の中に出てくるメロディと似ているらしいのですが,筆者は未確認です。再度,冒頭の部分が戻ってきて,荘重な雰囲気になって終わります。

グロリア これも序奏なしで,合唱が「グローリア」と歌い始めます。中間部は,ソプラノ・ソロとテノール・ソロが,オーボエとヴァイオリンの伴奏の上で,掛け合いを行って始まります。その後も独唱と合唱が交替しながら進みます。その後,冒頭の合唱が再現されます。最後は,「アーメン」と独唱〜合唱が歌って結ばれます。

クレド 激しく,せわしない感じの序奏に続いて,合唱によって「クレド・イン・ウーヌム・デウム」と歌い始められます。オーケストラのせわしない伴奏は続き,フーガのような雰囲気になり前半が終わります。中間部は,アダージョ(ゆっくりしたテンポ)で短調になります。非常に美しい部分です。続いて,前半が再現されますが,ここではソプラノのソロからはじまる副次的な主題も登場します。最後は「アーメン」で終わります。

サンクトゥス 堂々としたオーケストラ伴奏のうえに合唱が歌い通される壮麗な曲です。途中でテンポが変わり,「ホザンナ」と歌われます。

ベネディクトス まず,穏やかな前奏があります。一瞬,宗教曲だということを忘れてしまうほど,モーツァルトらしいメロディです。その後,4人のソロによる歌が続きます。最後に,サンクトゥスの後半の「ホザンナ」と「ベネディクトゥス」が交互に出てきて,この楽章は結ばれます。

アニュス・デイ この楽章の前半はヘ長調になります。宗教曲とは思えないほど豊かな雰囲気のある前奏のあと,ソプラノ・ソロが「アニュス・デイ」と歌い始めます。このメロディは,歌劇「フィガロの結婚」第3幕の伯爵夫人のアリア「美しき日はいずこ」とそっくりです。この曲自体も,アリアそのもので,せつなくなるほどメロディアスです。「ミゼレーレ」と歌われる部分をはさんで,再度「アニュス・ディ」が少し変形されて出てきます。その後,テンポが少し速くなり,冒頭の「キリエ」のソプラノソロで歌われた旋律が再度登場します。最初の曲と最後の曲に同じメロディが出てくることで,曲全体の統一感が出てきています。その後,テノールなどでもこのメロディは歌われ,次第に盛り上がっていきます。最後は,堂々とした合唱で全曲が結ばれます。(2001/9/19)