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モーツァルト Mozart
2台のピアノのための協奏曲変ホ長調,K.365(ピアノ協奏曲第10番)

20歳過ぎのモーツァルトが姉ナンネルと一緒に演奏するために書いた2台のピアノのための協奏曲です。モーツァルトがさらに若い頃に作曲した3台のピアノのための協奏曲の方は,パートによってかなり力点の置き方に差があったのですが,こちらの方は,第1ピアノと第2ピアノの力点の置き方にほどんど差がありません。お姉さんに対する敬愛の気持ちの現れなのかもしれません。

この曲は,大変明朗な曲で,管弦楽とピアノの関係も比較的単純に構成されていますが,これはパリで知り合ったシュレーターという作曲家の6曲のピアノ協奏曲の影響があると言われています。その一方,後年のモーツァルトのピアノ協奏曲同様,管楽器が効果的に利用されています。この曲はザルツブルク時代最後のピアノ協奏曲ですが,ケッヘル400番台以降のウィーン時代の充実した協奏曲群の先駆になっている作品とも言えます。

この曲の編成は,弦5部にオーボエ2,ファゴット2,ホルン2本の加わった編成なのですが,それ以外に両端楽章にクラリネット2,トランペット2,ティンパニが付加された版も存在します。ただし,この付加がモーツァルト自身によるものかは不明です。

第1楽章 アレグロ,変ホ長調,4/4,ソナタ形式
次々と新しいメロディが沸いて出てくるような楽章です。ただし,それらの主題は相互に関連していますので,全体的に統一感のある楽章となっています。冒頭元気良く出てくる第1主題はかなり息の長いものです。フォルテとピアノの対比,音の高低の対比などを含むダイナミックなものです。経過部に続いて出てくる同音反復のスタッカートの副主題は展開部の冒頭でも使われます。その後,フェルマータとなり,一旦終止します。その後,さらに第1主題と関連のある副主題が繰り返し演奏された後,呈示部の終結部となります。

休止の後,満を持したように2台のピアノが平行3度の関係で華やかにトリルを演奏し始め,独奏楽器による呈示部が始まります。その後,第1ピアノと第2ピアノが交代で第1主題の後半を演奏します。1オクターブ以上の跳躍の後,トリルを交えて下降する副主題,速い動きをもったパッセージ...といろいろな主題が滑らかに続き,最後に愛らしい第2主題が第1ピアノ,第2ピアノの順に演奏されます。この後,さらに別の副主題が登場した後,管弦楽による終結部となり呈示部が閉じられます。

展開部は,上述の副主題で始まります。その後も呈示部で出てきた音型が2台のピアノの対話風に次々と出てきます。速いパッセージで展開部が結ばれた後,再現部に入っていきます。再現部では,第1主題の後半部がハ短調になるのが特徴的ですが,その他の主題は定石どおりの構成になっています。半休止の後,カデンツァが入ります(モーツァルト自身によるカデンツァが残されています)。最後は管弦楽によって結ばれます。

第2楽章 アンダンテ,変ロ長調,3/4,3部形式
A-B-A’の3部形式で書かれた素朴な響きのする楽章です。最初の主題Aはとても優美なもので,管弦楽が呈示した後,第2ピアノが引き継ぎます。新しいメロディを交え,2台のピアノ間で対話をしたり,平行進行をしたりしながら曲は進んで行きます。時々出てくる,翳りのある和音が印象的です。

中間部はハ短調になります。メランコリックなメロディが連綿と歌われた後,冒頭のメロディが戻ってきます。第3部は,第1部よりも縮小されていますが,ほとんど同じ構成となっています。

第3楽章 ロンドー,アレグロ,変ホ長調,2/4,ロンド形式
スタッカートで「タタタ,タラララ...」と陽気に歌われるロンド主題が弦楽器の弱音で呈示された後,フォルテで繰り返されます。快適な流れを突然止めるように,フェルマータで音が伸ばされる辺りにモーツァルトらしさが現れています。

その後,ピアノが入ってきて副主題を演奏し始めます。ロンド主題が顔を出した後,第1エピソードに入ります。ここでは3連符の動きと付点リズムを持った行進曲風のメロディが2台のピアノの間で絡み合っています。経過部の後,ロンド主題が演奏されます。

第2エピソードは,16分音符によるトレモロ音型と3連符とが2台のピアノ間で絡み合います。かなり切迫した気分のある部分です。再びロンド主題が出た後,第1エピソードが一部変型されて再現されます。

再度,ロンド主題が出てきた後,カデンツァが導かれます(モーツァルトによるカデンツァが残されています)。最後はロンド主題で明るく閉じられます。(2006/07/20)