モーツァルト Mozart

■ピアノ協奏曲第19番ヘ長調K.459
Konzert fur Klavier und Orchester in F-Dur K.459

モーツァルトのピアノ協奏曲では第20番以降の8曲が「後期ピアノ協奏曲集」と呼ばれ,演奏頻度も高いのですが,その直前の作品がこの第19番です。この時期,モーツァルトはウィーンで活躍していましたが,その聴衆の好みを反映し,耳に快く,聴衆と専門家の両方を満足させるための曲を書いています。付点リズムを含む行進曲風の開始などもその辺の好みを意識したものと言えます。

1790年,フランクフルト・アム・マインで行われたレオポルド2世の戴冠式の時に,この曲はピアノ協奏曲第26番「戴冠式」とともに演奏されています。そのため「第2戴冠式」協奏曲と呼ばれることもあります。祝祭的な気分がありますので,フルート1本,オーボエ,ファゴット,ホルン各2本,弦五部に2本のトランペットとティンパニを加えて演奏されていたのではないかと予想されていますが,そのパートは散逸されたままとなっています。

第1楽章
アレグロ,ヘ長調,2/2,協奏曲ソナタ形式
アラ・ブレーヴェの行進曲風の楽章です。この時期の他の協奏曲同様,「タッタタター」という”いつものリズム”で行進曲風に始まります。ティンパニやトランペットが入らないので,フルートと弦楽器の音を中心とした響きとなり,どことなく可愛らしさを感じさせる行進曲となっています。楽章全体もこのリズムによって統一されており,戴冠式に相応しい仕立てとなっています。

この主題は素朴すぎるぐらいにシンプルなものです。ピアノ独奏の入ってくる呈示部では弦楽器と管楽器の対比による別の主題も登場しますが,それ以外の部分ではいろいろな楽器から行進曲リズムが聞こえてきます。

展開部では曲想が短調に変わり,ピアノの3連符パッセージの上に行進曲リズムが執拗に強調されます。型どおり再現がされた後,カデンツァになります。その後,簡単がコーダとなり楽章は締めくくられます。なお,この楽章にはモーツァルト自身によるカデンツァが残されています。

第2楽章
アレグレット,ハ長調,6/8,展開部のない協奏曲ソナタ形式。
通常,モーツァルトの協奏曲では,第2楽章はアンダンテやアダージョといった速度指定がされることが多いのですが,この曲では「アレグレット」という指定がされているのが注目されます。最初に出てくる主要主題は明るいのに翳りが感じられるモーツァルトならではの魅力を持ったものです。

独奏ピアノの入ってくる第2呈示部では,ピアノと木管の掛け合いによって進んでいきます。曲が進むにつれて翳りが深くなっていくような後期の協奏曲に通じるムードを持った美しい楽章です。

第3楽章
アレグロ・アッサイ,ヘ長調,2/4,ロンド形式
ピアノ独奏によるオペラ・ブッフォ調の主題で始まり,木管楽器などと掛け合いを見せた後,フガート主題が開始するという意表を突く展開で始まります。全体はロンド形式で書かれていますので,何度か再現してくる最初の楽しいロンド主題が中心になるのですが,展開部的な中間部ではこの両主題が組み合わさって二重フーガになります。こういう形式は,大変独創的なもので,構成の上でも後期の作品に比べて遜色のないものとなっています。ロンド主題の最後の再現に入る前にカデンツァが入りますが,この楽章にもモーツァルト自身によるものが残されています。(2004/11/06)