モーツァルト Mozart

■ピアノ協奏曲第21番ハ長調,K.467

モーツァルトのピアノ協奏曲は第20番以降は名曲揃いです。この曲は,1つ前のK.466のニ短調のピアノ協奏曲と対になるような名曲です。明るい曲と暗い曲を対にするというのはモーツァルトにはよくあることです。K.466はベートーヴェン的なデモーニッシュな雰囲気を持った作品でしたが,このK.467は,ハ長調という調性もあって清澄な雰囲気に溢れています。その古典的なバランスの良さ,アンダンテのメロディの美しさ,沸き立つようなフィナーレはモーツァルトの最良の一面を示しています。ほとんど突貫工事のように書かれた曲なのですが,その完成度の高さは見事です。

第1楽章
軽快な行進曲のような第1主題で曲は始まります。弱音から始まり,だんだんと堂々とした雰囲気になります。木管楽器による導入の後,独奏ピアノが指慣らしのように入ってきます。ピアノが装飾的に第1主題を演奏した後,一瞬短調に切り替わります。このメロディは交響曲第40番の第1楽章の有名な主題と似ています(しかもト短調)。それを追い払うように平明な第2主題が出てきます。こちらはホルン協奏曲第3番の主題と似ています。第1主題のリズムを中心にオーケストラの各楽器が対位法的に活躍した後,展開部に入ります。

ここでは主題が短調になって登場し,曲に陰影が付けられますが,それほど深刻にはならず,ピアノが演奏技巧を誇示しながら進みます。再現部では第1主題,第2主題と再現された後,木管楽器によって軽やかな副主題が出てきます。その後,カデンツァになります。モーツァルト作曲のものは残っていませんので,演奏者の個性が発揮されることになります。最後は冒頭の行進曲のリズムに戻って,静かに終わります。

第2楽章
この楽章のメロディは,恐らく,モーツァルトの曲の中でも最も有名なものの一つでしょう。それは,1967年製作のスウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」でこのメロディが使われたからです。一度聞いたら忘れられない非常に美しいメロディです。このアリアのような素晴らしいメロディは,まず「ボン,ボン,ボン」という低弦と「タタタ,タタタ」というの3連符のリズムの上に弱音器付きの弦楽器で登場します。この3連符は楽章を通じてずっと出てきます。これも大変印象的です。このシンプルな美しさを持つメロディは次第に半音的な音の動きになり,陰影を帯びてきます。

中間部はニ短調になります。この中間部から最初のメロディに戻る,一瞬だけは例の3連符が中断します。再現部では調性が変イ長調に変わります。この辺も効果的です。最後はひっそりと終わります。

ちなみにこの「みじかくも美しく燃え」という映画の原題は「エルヴィラ・マディガン(Elvira Madigan)」といいます。これは映画の主人公の女性の名前です。実話に基づいた恋愛映画です(実は観たことはないのですが)。商売熱心なCDなどには時々,このサブタイトルがついていることもあります。

第3楽章
陽気なオペラ・ブッフォのような雰囲気の第1主題で始まります。これが繰り返された後,ピアノが入ってきます。「ドーミーソー」と流れるような経過的な副主題が出てきた後,軽快に弾むような第2主題が木管楽器に出てきます。これがピアノでも繰り返されます。陽気な雰囲気がずっと続き,独奏ピアノは勢いに乗って音階を上下します。展開部はなく,最初の部分に戻ります。今度は独奏ピアノが先に出てきます(第1主題が何度も出てくるのでロンド形式とも考えられるようです)。型どおり再現した後,カデンツァになります。最後はピアノが華やかに音階を上昇し,華麗に全曲が結ばれます。(2002/03/14)