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モーツァルト Mozart
ピアノ協奏曲第25番ハ長調,K.503

モーツァルトは,1784年から86年の間に集中的にピアノ協奏曲を作曲してきました。その連作を締めくくる華麗で雄大な作品がこの第25番です。いずれも名曲揃いの20番台の協奏曲の中では,録音や実演の機会はそれほど多くない曲ですが,「ジュピター」交響曲と同じ,ハ長調ということもあり,交響曲を思わせるような堂々たるスケール感を持った作品となっています。

ファンファーレを思わせる冒頭部分の華麗さ,両端楽章でのピアノの目まぐるしい動きなど外面的な華々しさを狙った作品ということもあり,初演当時から人気作品だったことが予想されますが,逆に現在となっては,この点が,今一つ人気のない理由になっているところがあります。

この25番の協奏曲の後,モーツァルトは,第26番K.537と第27番K.595を散発的に書いているだけです。その意味でも,交響曲第41番「ジュピター」に当たるピアノ協奏曲がこの曲と言えます。

曲は,1786年12月4日に完成され,翌日に企画されていた待降節の予約演奏会で演奏されたと推測されていますが,定かではありません。なお,この曲の完成した2日後に,ケッヘル番号が1つ違いの交響曲第38番「プラハ」K.504が完成しています。

楽器編成:独奏ピアノ,フルート1,オーボエ2,ファゴット2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,弦五部

第1楽章 アレグロ・マエストーソ ハ長調 4/4拍子 ソナタ形式
曲は,ドミソの主和音が下行する力強いファンファーレ風の主題で堂々と始まります。その途中,ファゴットとオーボエが優しく,翳りのある合いの手を入れます。この明暗の対比は,この楽章の特徴となっており,その後もしばしば短調への翳りを見せます。第1主題に続く経過部では,上行するグリッサンド風の激しい動きなどが出てきて,ここでも見事なコントラストを聞かせてくれます。明暗の対比に支配されています。

その後,翳りはあるけれども軽快な副主題がハ短調で呈示されます。この主題は経過部で出てきた音型から発展してもので,第1ヴァイオリンの後,オーボエに渡され,ハ長調になります。

その後,独奏ピアノが演奏に加わり,管弦楽のみによる呈示部が終わります。独奏ピアノの音の動きは,即興的で,これまでの堂々とした気分とは違った空気を作ります。

管弦楽とピアノが華麗に絡み合いながら,第1主題が再度呈示されます。続いて独奏ピアノによって,変ホ長調の新しい主題が可愛らしく演奏されますが,すぐに力強いパッセージに変わります。続いて,ト長調で優美な第2主題が呈示されます。この主題は第1主題と対照的なメロディアスなもので,独奏ピアノに続いて,木管楽器に引き継がれていきます(この木管楽器の美しさは,モーツァルトの後期のピアノ協奏曲に共通する性格です)。続く経過部は,第1主題の後と同様に構成されており,ピアノの名人芸を楽しむことができます。

展開部は,管弦楽呈示部に出てきたハ短調の副主題を中心に構成されています。この主題が執拗に繰り返され,調性と楽器を次々と変え,木管楽器とピアノが室内楽的に絡み合いながら,ポリフォニックに曲は進んで行きます。

ピアノの力強いパッセージで再現部が導かれた後,第1主題,変ホ長調の副主題,第2主題が主調で現れ,公式どおり再現されていきます。最後に独奏ピアノによるカデンツァが入った後,展開部で活躍した副主題も主調で再現され,楽章が閉じられます。

この楽章のカデンツァですが,モーツァルト自身によるものは残されていません。

第2楽章 アンダンテ ヘ長調 3/4拍子 展開部のないソナタ形式
華麗な動きを中心とした両端楽章に挟まれた,のんびりとした緩徐楽章です。最初に出てくる優美な第1主題,続いて出てくる跳躍的な音の動きを持つ第2主題は,共にゆったりとしたムードです。しばらくして独奏ピアノが加わり,第1主題が演奏されます。管楽器との美しい対話が続いた後,新たなメロディに導かれて,第2主題へと移ります。その後は,独奏ピアノを中心とした幻想的で即興的な部分が続きます。

その後,今までの部分が再現されます。この部分では,第2主題は主調で演奏されます。

第3楽章 [アレグレット*] ハ長調 2/4拍子 ロンド形式
弦楽器による軽快なロンド主題で始まります。この主題は下行するものですが,その後すぐ,管楽器による上行する音型がこれに合いの手を入れます。ロンド主題は一旦短調になりますが,すぐにハ長調に戻ります。

独奏ピアノが装飾的な音型を交えて入ってきます。3連符によるパッセージを繰り広げた後,ト長調の第1エピソードとなります。ここでは,ロンド主題と似た感じの流麗に下行するメロディを独奏ピアノが演奏します。これが管楽器で繰り返された後,独奏ピアノに導かれて,ロンド主題が再現されます。

第2エピソードは,悲しげなメロディで始まりますが,管弦楽が「チャンチャンチャン」とカデンツァを力強く入れると,一瞬にして気分が変わり,穏やかな気分を持ったメロディになります。この部分でもピアノと管楽器の美しい絡み合いが中心となって進んでいきます(この部分は,ボリューム的にも充実していますので,展開部と見なして楽章全体についてもロンドソナタ形式と捉える考え方もあります。)。

その後,ロンド主題が戻ってきます。第1エピソードが主調で再現され,最後にもう一度ロンド主題が演奏された後,堂々と全曲が閉じられます。

なお,この楽章ですが,全体に渡って独奏ピアノの活躍が目覚しいこともあり,カデンツァは置かれていません。モーツァルト特有のメロディが次々と湧き出てくるような,魅力的な楽章となっています。

*この楽章の自筆譜には「アレグレット」という速度指定はされていません。

(参考文献) 作曲家別名曲解説ライブラリー モーツァルト.音楽之友社
(2011/04/17)