モーツァルト Mozart

■ピアノ協奏曲第27番変ロ長調,K.595
モーツァルトの晩年の作品には,この世のものとは思われないような澄み切った雰囲気を持った曲がたくさんあります。この曲はそういう曲の代表です。

モーツァルトの第20番以降の後期のピアノ協奏曲はいずれも名作です。これらには,大体,ティンパニやトランペットが入っていますが,この曲と第23番だけには入っていません。そのため,曲全体が柔らかく,しっとりとした雰囲気になっています。名作揃いの後期ピアノ協奏曲集の中でもこの2曲に,とりわけ天国的な雰囲気があるのは,そのことも理由の1つだと思います。第23番も天国的な雰囲気がありますが,第27番の方は死期を覚悟して,悟ってしまったような平穏さが曲を支配しています。シンプルで明るいメロディが哀しく響く,大変な名曲です。

第1楽章 
ソナタ形式。低弦のさざめくような動きの上に,ヴァイオリンによって第1主題がひそやかに演奏されるとそれに木管楽器が合いの手を入れて答えます。第2主題の方も弦楽器と管楽器の対話によって進んで行きます。全体に明るい雰囲気の中に翳りの表情が見えます。オーケストラによる提示部が終わり一息つくと,ピアノ独奏が装飾音符を加えて入ってきます。こちらの合いの手は弦楽器です。ピアノで演奏される主題はさらに暗い表情を持っていますが,すぐに可愛らしい雰囲気に戻ります。提示部の終結部では,半音階的な音の動きが印象的です。

展開部は,第1主題が短調になって表われます。それがいろいろと転調していきます。これに管楽器を中心として複雑にメロディが絡み合ってきます。段々,緊張感が高まっていき,すっと最初の変ロ長調に戻ると再現部です。楽章の最後には,カデンツアが置かれています(モーツァルト自作のものが残されています。)。

第2楽章
3部形式。ピアノのモノローグで始まります。これだけシンプルかつ深い雰囲気を持つ曲は,モーツァルトの曲の中でも少ないでしょう。長調の曲なのに不思議と哀しくなる楽章です。中間部も最初の旋律と似た雰囲気があります。楽章全体に透明な静けさが溢れています。

第3楽章
ロンド的なソナタ形式。モーツァルトの歌曲「春へのあこがれ」と同じモチーフを使ったロンド主題で始まります(ちなみに,「春へのあこがれ」の方は次の番号のK.596です。このモチーフは,中田章作曲の「早春賦」とも音の動きが似ています。曲のタイトルからしても,「春へのあこがれ」の影響を受けているのではないかと思います。 )。ロンド主題は,6/8拍子で陽気な感じです。その他の主題も明るく踊るような感じです。それでいて,ここにも翳りが感じられます。ところどころ,半休止がありピアノがアインガング(指慣らしのような感じのパッセージ)が演奏されます。後半は,前半と同じような感じで繰り返されますが,調性が違っています。最後にカデンツァが演奏されます(ここでもモーツァルトの自作のものが残されています)。(2002/3/30)