モーツァルト Mozart

■ セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

モーツァルトが作曲したセレナードの中でもっとも有名な作品です。恐らく,彼の全作品の中でも最も広く愛されている作品でしょう。モーツァルトの曲については「天才的な」「完成された」といった言葉で形容されることがよくありますが,この曲などはその「天才的で完成された」作品の代表です。

この曲はモーツァルトの他のセレナードに比べると楽章が少なく4つだけです(実は5つあったらしいのですが)。その分「小さな交響曲」と言っても良いほどコンパクトに整然とまとまった作品となっています。どの部分を取っても親しみ易い旋律にあふれ,完璧と言って良いほどのバランス感覚を持っています。

「アイネ・クライネ...」という名前は,「小さな夜曲」といった意味のドイツ語です。日本人にとってそれほど親しみ易いとは言えないドイツ名そのままで親しまれているのもこの曲の人気の高さを反映しているのではないかと思いますす。ちなみにこのタイトルはモーツァルト自身が付けたものと言われています(「アイネ...クライネ...」というのは大変語呂が良いですが)。

モーツァルトのセレナードにはいろいろな編成のものがあります。この曲は弦楽合奏のために作曲されています(弦楽四重奏で演奏されることもあります)。この時期,モーツァルトは歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の作曲をしていますが,実はこの弦楽のためのセレナードがどういう目的で書かれたのか不明です。セレナードといえば,戸外で演奏されるもの,という常識があった時代ですので,この「小さなセレナード」は,”ワケアリ”の作品だったのかもしれません。

第1楽章 
全合奏による力強く輝きのある第1楽章で始まります。「ソ,レ,ソ,レ,ソレソシレ」というユニゾンによる分散和音の第1主題は,モーツァルトの数ある名旋律の中でも特に親しまれているものです。映画「アマデウス」の中でも「誰でも知っているメロディ」の典型として出てきました。この主題の後半は,第1ヴァイオリンが中心となります。トリルが印象的に加わって,軽快なリズムの上に疾走する雰囲気になります。

経過部は,平和で愛らしい気分になります。ここでも細かい装飾音符が印象的です。その後,音階を上るようにして緊張感を増し,一瞬全休符が入った後,第2主題になります。こちらは2部のヴァイオリンのオクターブで演奏され,第1主題の快活さとは対照的にちょっと気取ったような気分があります。その後,少しおどけたような同音反復が続く推移主題になります。この部分に出てくるトリルは第1主題の後半などを思い出させるものです。このように魅力的なメロディが次々湧いて出てくるのがこの曲の魅力です。

展開部は非常に短く,第1主題前半で始まり,第2主題後の推移主題が短調を交えて転調されていきます。最後にト長調に戻り,型どおりの再現部になります。コーダは第1主題の動機拡大した形で力強く結ばれます。

第2楽章
ロマンツェと名付けられた3部形式の楽章です。最初に出てくるシンプルでありながら夢のように甘美なメロディは第1楽章の第1主題同様,分散和音の動機を使っています。続いて,このメロディを変奏したような感じの同音反復の主題が出てきます。その後,また最初の部分に戻ります。

中間部はハ短調になり,ちょっと不安な空気になります。転調を重ねて,緊張感が高まった後,最初の主題が戻ってきて,楽章は静かに終わります。

第3楽章
明確で力強い3拍子のリズムの上に伸びやかなメロディが出てくるメヌエット楽章です。中間部は対照的に流麗にメロディが流れ,爽やかな歌が続きます。その後,最初のメヌエットに戻って楽章が結ばれます。

第4楽章
ソナタ形式風のロンド形式で書かれた,軽快な楽章です。通常のロンド形式とは違い,副主題が1つしかないので,ソナタ形式に近い形になっています。

最初に出てくる駆け上げるような軽快な第1主題は,第1楽章の第1主題の音の動きと関連があります。第3楽章のメヌエット主題を速くした感じにも聞こえます。経過句の後,全休符が入り,第2主題になります。「休符の後第2主題」というパターンもまた第1楽章とよく似ています。「タラララ,ララララ」という感じの流麗なメロディ自体も第1楽章の第2主題と似た部分があります。

経過句の後,再度全休符が入り,第1主題が出てきます。その後は激しい転調が続き,躍動的に爽やかに展開していきます。時折,全休符を交えながら,両主題が再現されます。コーダでは第1主題の動機が華やかに繰り返され,全曲が力強く結ばれます。(2005/03/19)