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モーツァルト Mozart
:交響曲第25番ト短調K.183(173dB)
モーツァルトの短調の交響曲といえば何と言っても交響曲第40番が有名ですが,それと同じト短調という”運命的な”調性で書かれた第25番の交響曲も同様の切迫感を持った名曲です。もともと,「第25番」といった番号付けはモーツァルトが付けた番号ではありませんので,この番号の代わりに「40番=大ト短調,25番=小ト短調」と呼ばれることもあります。まだ17歳だったモーツァルトの意欲が全面に溢れた「疾風怒涛(シュトルム・ウント・ドランク)」の気分に満ちた作品となっています(ただし,文学におけるシュトルム・ウント・ドランクの時代とは,ずれていますのであくまでも「気分」ですが)。

この曲の楽器編成ですが,ホルンが4人というのが珍しい点です。2名がト長調の楽器,もう2名が変ロ長調の楽器を使う指定がされています。このように2種類の楽器を使うのは,ナチュラル・ホルンの性能の制限によるものです。その他,オーボエ2本とファゴット1本が,弦五部に加わります。

第1楽章 アレグロ・コンブリオ,ト短調,4/4,ソナタ形式
「タターンタータータ,タターンタータータ...」というシンコペーションの連続を伴う弦楽器のユニゾンの主題で曲は始まります(このリズムパターンはモーツァルトが大変好んでいたものです)。切迫感を伴った一直線な若さを感じさせるメロディは,映画「アマデウス」の冒頭で流れた曲としてすっかり有名になりました。ここで出てくる,4度下降,半音上昇,減7度下降の音程は重要なものです。その後に出てくる一気に上昇して行く音型は,40番の交響曲の第4楽章を思い出させます。

この第1主題がオーボエで繰り返された後,音楽は一転して変ロ長調の推移部に変わり,弦楽器の鋭い音型とホルンの大らかなメロディなどを中心にエネルギッシュに進みます。その後半がヴィオラと低音弦で強調され,嵐のようなユニゾンの分散和音の部分を経て,少しユーモラスなところのある第2主題が変ロ長調で登場します。

展開部は第1主題から導き出されたオーボエを中心に現れる音型と第2主題のリズムを中心に展開されます。最後,印象的な半音の動きを見せて再現部に入っていきます。再現部は暗いト短調で塗りつぶされます。弦の激しいトレモロは一段と音楽の嵐を強めています。コーダでは,第1主題によるカノンとなり,シンコペーションのリズムが強く印象付けられて楽章は結ばれます。

第2楽章 アンダンテ,変ホ長調,2/4,3部形式
弱音器を付けたヴァイオリンとファゴットによる静かで切れ切れの対話で始まります。変ホ長調ですが暗い気分を持った楽章です。その中に突然,4小節だけ,明るいブッファ調のメロディが現れますが,すぐにまた冒頭のメロディに戻ります。

中間部は,それほど気分が変わらず,静かな対話が続きます。その後,最初のメロディが戻ってきます。気分はさらに深沈としたものとなり,最後は,静かにさり気なく楽章が閉じられます。

第3楽章 メヌエット,ト短調,3/4,複合三部形式
短調のメヌエットです。暗いユニゾンが整然とした中にも不吉な気分を漂わせています。フォルテとピアノのコントラストも鮮明に付けられています。管楽器だけによるトリオは対照的に明るく,のどかな性格を持っています。全曲中,ほっと一息つけるのはこの部分だけです。その後,再度,短調のメヌエットが戻ってきます。

第4楽章 アレグロ,ト短調,2/2,ソナタ形式
第1楽章に対応する激しい嵐の楽章です。第1楽章同様,暗澹とした弦のユニゾンで始まります。この主題は第3楽章のメヌエットのテーマの変型となっており,楽章間の強い結びつきを感じさせます。また,この主題が繰り返される時には,第1楽章で用いられたシンコペーション動機が出てきます。推移部の後,変ロ長調で第2主題が呈示されますが,ここでもシンコペーション動機や第1主題が絡み合っています。第1ヴァイオリンだけが残った後,展開部に入っていきます。

展開部は長くはありませんが,全楽器が参加する力に満ちたものとなっています。ここでも半音階的動き,弦のトレモロ,シンコペーションなど,これまでの楽章と同様の手法が使われています。再現部は,第1楽章同様,暗いト短調に塗りつぶされます。コーダになっても暗い気分は変わらず,陰鬱さを残したまま全曲は閉じられます。(2006/09/05)