モーツァルト Mozart

■交響曲第29番イ長調K.201

モーツァルトの交響曲では,第35番以降の6曲(37番は除く)が後期6大交響曲としてよく知られていますが,それと並んでよく知られているのがこの第29番です。モーツァルトは,1773年頃にウィーン旅行後に5曲の交響曲を集中的に書いていますが,その中でト短調の第25番とこの第29番が特に傑作として知られています。

この曲には,イタリアのシンフォニアの様式を脱し,ウィーンの交響曲の様式を巧みに学びとった成果が現れていると言われています。具体的には,両端楽章の主題の統一性,各楽章内部での多主題性,メヌエット楽章以外がすべてソナタ形式で書かれている点,再現部の後に独立したコーダを持つといった点に現れています。これは,ミヒャエル・ハイドンの影響とも言われています。

楽器編成は,弦五部にオーボエ,ホルン各2という室内楽的な編成です。モーツァルトは,その後,もう少し華やかな気分のある「ギャラント様式」に向かっていき,この曲にもその兆しはありますが,むしろ晩年の交響曲につながるような緻密さを持っている点が注目される点です。一見地味なところはありますが,若々しさと高度な作曲技法とが結合した名作交響曲です。

第1楽章
アレグロ・モデラートの第1主題は,「ド→ド」という主音のオクターブ下降+同音反復の繰り返しで始まります。はじめはひっそりと始まり,各声部が主題に対して次第に立体的に絡んで奥行きのある表情を出していきます。管楽器が加わってフォルテになる部分ではカノン風になるなど,密度の高い書法で書かれています。こういう密度の高さはモーツァルトのこれまでの曲にはみられなかったものです。

第2主題の方は淡々とした表情を持っていますが,ここでもフーガ的な動きが見られます。この楽章は全体にアポロ的な落ち着いたたたずまいを見せるていますが,時折,訴えかけるような表情も見られます。この第2楽章にもそういう魅力があります。この第2主題の後にもう一つ副主題が出てきます。こちらも美しさが湧き上がってくるような魅力を持っています。この主題が次々と出てくる「多主題性」は,モーツァルトの特徴となっています。

展開部は短いものですが,第1主題のオクターブ動機がフーガ風に扱われたり,第2主題に関連のある動機が次々と転調されるなど,充実した内容となっています。再現部が型通り行われた後,充実したコーダになります。ここでは第1主題がフーガのストレッタ風に処理され,堂々と結ばれます。

第2楽章
弱音器付きのヴァイオリンによる静謐さを持った主題ではじまりまるしっとりとしたアンダンテ楽章です。複付点リズムが特徴的です。晩年の緩徐楽章にも匹敵する室内楽的緊密さで書かれている。ここでも主旋律に他楽器が対位法的に絡み合い,豊かな歌を作っています。第2主題も弦楽器だけによる優雅なメロディです。その後,細やかな音の動きを伴った副主題に受け継がれます。この主題はさらにオーボエが引き継ぎます。3連符の小結尾の後,展開部に入ります。

展開部でもこの3連符が多様されます。調性がいくつか変化した後,原調に戻り再現部になります。ここでは第1主題が少し主題が拡張されています。また第2主題がホルンで反復されるのも呈示部と違う点です。コーダでは初めて弱音器が取り外されます。鶴の一声のようなオーボエに続いて,瑞々しい弦楽器の響きが出てきて,爽やかに楽章は締めくくられます。

第3楽章
複合3部形式からなるリズミッカルなメヌエット楽章です。付点音符が散りばめられた楽しさがありますが,舞曲的というよりはシンフォニックです。弦楽器を中心に進められた後,各節の終わりでは,オーボエとホルンのユニゾンによるファンファーレが入ります。トリオはしっとりとした流麗さを持っています。管楽器がずーっと音を伸ばしているのも印象的です。再度,最初のメヌエットに戻って終わりますが,曲の最後,管楽器のファンファーレでフッと終わっているのにもとぼけた味があります。

第4楽章
快活さのうちに緊密な構成を示したアレグロ・コン・スピリートの楽章です。ホルンの力強い響きも聞かれるのでちょっと狩の雰囲気も漂います。第1楽章の第1主題と呼応するかのようにオクターブ下降音型で始まります。その後,堰を切ったように駆け上っていくのが爽快です。第2主題は対照的に旋律的なものに変わります。第2ヴァイオリンが演奏する上に,第1ヴァイオリンが装飾をくっつけて行きます。

展開部は第1主題の動機のみで構成されて執拗に繰り返されます。その繰り返しが心地よい緊張感を作っていきます。再現部の後,第1主題の素材によるコーダで力強く全曲が結ばれます。

(参考)
作曲家別名曲解説ライブラリー13.モーツァルトI.音楽之友社,1993(2004/06/05)