モーツァルト Mozart

■交響曲第31番ニ長調,K297(K300a)「パリ」

 モーツァルトの交響曲では,やはりニックネームの付いている曲がよく知られています。モーツァルトの交響曲には都市名のニックネームの付いたものが3つありますが,どれも大した意味はありません。この曲の「パリ」というのも「パリ」で作曲したから,というだけの理由です。特にフランス風というわけではないのですが,「パリ」という大都市のお客様向けに作曲しただけあって,編成的にも大きく,明るく華やかな雰囲気の曲となっています。

この曲はクラリネットを用いた初めての曲で,きっちり2管編成となっています(意外なことに完全な2管編成の交響曲はこの曲と「ハフナー」交響曲だけです。)。この曲はパリを訪れる前のマンハイムのオーケストラのすぐれた技術に刺激を受けて作曲されたと言われています。メヌエット無しの3楽章構成というのもパリのお客さんに合わせたもののようです。

この曲は,モーツァルトが4年ぶりに書いた交響曲ですが,その間に交響曲というジャンルの位置付けも変わってきたようです。モーツァルトの交響曲では35番以降の曲は後期6大交響曲として頻繁によく演奏されますが,この「パリ」交響曲もそれに並ぶような充実したダイナミックな曲となっています。

第1楽章 アレグロ・アッサイ ニ長調 4分の4拍子。ソナタ形式。
堂々としたユニゾンの第1主題で曲は始まります。ヴァイオリンが一気にオクターブを駆け上がった後,対照的に弱音で下降するメロディが演奏されます。その後もいろいろな動機が断片的に出てきます。第2主題は,ヴァイオリンで歯切れよく出てきた後,クラリネットとファゴットが応答します。

再度,第1主題が出てきて,弦楽器の動きが3連符に変わった後,展開部に移ります。第1主題の呈示の後,楽しげな新しいメロディがカノンで出てきます。だんだんとクレッシェンドをして行き再現部になります。最後はオペラの序曲風に生き生きと華麗に結ばれます。

第2楽章 アンダンテ ト長調 8分の6拍子。展開部のないソナタ形式。
強弱記号が詳細に付けられた情緒豊かな,第1主題で始まります。荘重なリズムの後,下降していくような優美な第2主題が出てきます。ちょっと短調っぽい音形になった後,ブリッジの句が1小節入り,型どおりの再現部になります。ギャラント様式の影響を受けた上品な楽章となっています。

第3楽章 アレグロ ニ長調 2分の2拍子。ソナタ形式。 
第1楽章とは違い,第2ヴァイオリンの忙しい刻みの上に第1ヴァイオリンがシンコペーションの旋律を演奏して始まります。最後の楽章もユニゾンで来ると思っていたパリのお客さんの意表を突くためのアイデアです(モーツァルト自身「やっぱり受けた」手紙に書いています)。その後,第2主題が出てきてフガート風に展開していきます。展開部でも第2主題が中心に扱われます。その代わり,再現部では第1主題の後,すぐに第2主題の後半に移ります。そして,そのままの勢いを持って,華やかなコーダで結ばれます。(2003/02/25)