モーツァルト Mozart

■交響曲第39番変ホ長調,K.543

モーツァルトの最後の3つの交響曲はいずれも大傑作です。それぞれに特徴がありますが,この39番は3つの中でもっとも優美な雰囲気を持っています。随所に感じられる翳りも大変魅力的です。40番の持つ「哀しみ」,41番の持つ「風格」と比べると,最初に聞いた時のインパクトは弱いのですが,聞けば聞くほど味わいの増す魅力を持っています。モーツァルトの「白鳥の歌」と言えば,この曲になるのではないかと思います。

楽器の編成的には,オーボエが入らず,クラリネット2本が入っているのが特徴です。このことが曲全体の響きにも影響を与えています。第3楽章のクラリネットのデュオなどでもこの編成が大変よく生きています。

第1楽章 
アダージョの堂々とした序奏とソナタ形式のアレグロから成っています。序奏は非常に堂々としたものです。荘重な付点リズムと流れるような下降する音型とが交錯しながら進んでいきます。次第に密度と緊張感を増していく辺りは非常に聞き応えがあります。その頂点に達したところで,ふっと消え,まさに息を飲む瞬間という感じでアレグロの主部に入っていきます。

このアレグロ部分は「歌うアレグロ」と呼ばれます。これは,モーツァルトの曲に良く使われる言葉ですが,まさにこの曲のためにあるような言葉です。序奏部の緊張感の後だと,非常に晴朗に響きます。憧れに満ちた純粋な明るさの中に,そこはかとない翳りが漂います。ひっそりとした雰囲気の後にしなやかに歌い上げる「呼吸」も素晴らしく魅力的です。続いて,序奏の音型に基づく堂々とした経過句が出てきます。その後,和やかな第2主題が出て呈示部を閉じます。短調と長調が交錯し,明るいのに哀しくなる雰囲気が魅力的な部分です。

展開部は短く,経過句で出てきた音型を中心に軽やかに進みます。美しいため息のような呼吸の後,主題が再現されます。ここでは少し味付けが変わっていますが,流れるような美しさはそのままです。

第2楽章
アンダンテ・コン・モートの緩やかな楽章です。2部形式です。最初は穏やかな主題で始まります。ここに含まれる付点リズムは,第1楽章の序奏と共通しています。続いて,ヘ短調の激しさを持った部分になります。最初の部分との対比が非常に効果的です。第1主題と絡み合い,さらに深みを持って進みます。第2部では前半部が繰り返されますが,短調の部分ではさらに音が厚く,激しくなっています。最後は,最初の穏やかなフレーズが戻り安らかに結ばれます。

第3楽章
メヌエット楽章です。力強く,堂々とした主題で始まります。このダイナミックな雰囲気を弦楽器の優しいメロディが受けます。中間のトリオの部分は,クラリネット2本の旋律が非常に魅力的です。低音クラリネットの伴奏の上に高音クラリネットが穏やかに歌うの部分はシンプルだけれども他の作曲家には真似のできないような美しさに溢れています。それをフルートがエコーのように受けます。その後に続く,ヴァイオリンの哀しみをはらんだ美しい旋律も魅力的です。その後,冒頭の堂々とした主部に戻って,楽章は終わります。

第4楽章 
ベートーヴェンの交響曲の最終楽章は,重々しいものが多いのですが,それとは正反対の大変軽やかなフィナーレです。第1主題はヴァイオリンだけで軽やかに始まり,すべるように進んでいきます。この主題が繰り返されるうちに編成は大きくなっていきます。第2主題の方も第1主題とほとんど同じようなものです。つまり,ロンド形式かソナタ形式かよくわからないような形式となっています。展開部では第1主題の力強いユニゾンと軽快な雰囲気とが交錯します。時々出てくる休符もハッとさせます。再現部も軽やかさと疾走感を失わず,一気に飛翔して全曲が結ばれます。(2002/11/22)