モーツァルト Mozart

■交響曲第40番ト短調K.550
モーツァルトの作品は,大半が長調の作品なので,数少ない短調の作品は,すべて強い印象を残すような作品となっています。40番交響曲は,そういう作品の代表ともいえる作品です。交響曲で短調なのは,この40番と25番の2つだけですが,いずれもト短調で書かれていますので,それぞれ「大ト短調」「小ト短調」と呼ばれて区別されています。また,モーツァルトの晩年に書かれた39〜41番の最後の3つの交響曲は,通称「3大交響曲」と呼ばれています。それぞれに魅力がありますが,40番はその中でも特に強い個性を持っていて人気があります。なお,40番には,クラリネットが入る版と入らない版があります。通常は,クラリネットの入る版で演奏されますが,時々,原典版としてクラリネットの入らない版で演奏されることもあるようです。

第1楽章 冒頭のヴァイオリンで演奏されるテーマは,ロマン的,デモーニッシュ(悪魔的)といってよいほどの名旋律です。「ため息」の音型と書いてある本もあります。誰もが一度聞けば覚えてしまうほど,情に訴えるインパクトの強さを持っています。いちばん最初がヴィオラの伴奏だけで始まるというのもとても新鮮です。第2主題の方は長調で,ほっとするような感じのメロディです。が,こちらのも半音ずつ下がっていくような音型ですので,どこか翳(かげ)りがあります。展開部は,この2つのメロディをもとに,激しく転調を繰り返し,ドラマティックに展開していきます。再現部もとてもドラマティックです。評論家の宇野功芳氏は,往年の名指揮者ブルーノ・ワルター指揮の40番を高く評価しているのですが,この再現部でのルフトパウゼ(楽譜にない休符)が大好きです。ワルターの40番を引き合いに出す時は必ずこのルフトパウゼが素晴らしいと言っています。確かにとても印象的なので,関心のある方は,一度ワルター指揮の40番を聞いてみられることをお薦めします。この楽章は,半音下がる「ため息」の音型の連続が重要な要素となっていますが,この音型は,他の楽章でも出てきており,曲全体のまとまりと迫力を生むのに役だっています。

第2楽章 第1楽章と対照的に,アンダンテ(歩くような速さ)の穏やかな楽章です。第1主題は,低音部から高音部へと順に同音の繰り返しが積み重なって行きます。ここでも「ため息」の半音の動きが出てきており,次第に翳りが出てきます。この翳りは,展開部ではもっと力強く打ち出されます。

第3楽章 メヌエットですが,楽しい舞曲などではなく,ト短調の深い悲しみに満ちた表情を持っています。中間部は,対照的にほっとするような長調のメロディになります。弦楽器のなめらかな主題に対して,ホルンをはじめとした管楽器がエコーのように答えます。

第4楽章 小林秀雄の「モオツァルト」という有名な評論の中で,大阪の道頓堀を歩いている時に聞えてきた,と書いていたのがこの楽章の冒頭です。急速なテンポで上に駆け上っていく主題は,実は,前の楽章のメヌエットの主題とよく似ています。その後に,フォルテで続く激しい分散和音も非常にドラマティックです。その後も激しい動きが続きます。第2主題は,一応長調なのですが,やはり半音の動きが多用されていますので,それほど明るくはありません。その後も,劇的で細かい音の動きが一貫して続き,展開部では,さらに切迫感が増していきます。再現部では,第2主題も短調になってしまい,すっかり悲劇的な気分になってしまいます。曲は,そのまま勢いを止めず,一陣の風が吹きすぎるように終わります。(2001/9/18)