モーツァルト Mozart

■協奏交響曲変ホ長調K.297(Anh.C14.01)

この作品は,モーツァルトの曲なのかどうか微妙な作品です。

1778年パリにいたモーツァルトはマンハイムで知り合ったフルート,オーボエ,ホルン,ファゴットの4人の管楽器奏者のために協奏交響曲を書いたと父親に手紙を書いています。しかし,その作品の楽譜は現存していません。

それが20世紀初めになって,モーツァルトの遺品の中から,クラリネット,オーボエ,ホルン,ファゴットという4つの管楽器のための協奏交響曲の筆写譜が出てきました。「これがパリで作った協奏交響曲に違いない」という説が出てきて,旧モーツァルト全集ではK.297としてこの曲がモーツァルトの作品に加えられました。しかし,ソロ楽器の編成も違うこと(オリジナルのフルートではなくクラリネットが入っています),様式的にも不自然な点があるところから,新モーツァルト全集では偽作と判断されました。

が,ソリスト4人という華やかで豊かな気分があることと典雅で魅力的なメロディが多いこともあって,根強い人気のあるのも事実です。モーツァルトにはヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲がありますが,これと丁度良いペアにもなるのも親しまれている理由の一つでしょう。

この「魅力的だけどモーツァルトではない?」というすっきりしない点を解決するためにモーツァルトの様式に詳しいロバート・レヴィンが,クラリネットの代わりにフルートを入れて,オリジナルっぽく再現した「レヴィン版」が1980年代に出版されました。これは,一種のフィクションなのですが,見事な出来ばえで,従来のクラリネット入りの版よりも優れていると言われています。

ちなみに,レヴィンらは統計学的な観点からこの曲の構造を分析し,従来のクラリネット入りの版についても「フルートを含む版の改編版」と結論づけ,モーツァルトの作品に間違いないという鑑定を行っています。

この際,誰の作品だということには拘らず,典雅な魅力を楽しめば良い作品と言えそうです。

第1楽章 アレグロ,変ホ長調,4/4,協奏風ソナタ形式
弦楽器のユニゾンで演奏される印象的なリズムを持った第1主題で始まります。これは主題というよりはイントロ的な感じで,実際はそれに続く第1ヴァイオリンとオーボエとが掛け合いをする部分の方が第1主題的です。その後もいろいろな楽器が絡み合いながら進んでいきます。途中,ホルンが行進曲調のリズムを出した後,曲は穏やかな雰囲気となり,しっとりとした第2主題が第1ヴァイオリンで歌われます。これが管楽器によって繰り返された後,先ほどの行進曲調のリズムと第1主題とが交錯して再現されながら,小結尾となります。

その後,独奏楽器群による呈示部に入ります。第1主題が4つの楽器のユニゾンで演奏された後,いろいろと組み合わせを変え,明るい響きが次々に湧き上がってきます。第2主題はオーボエによって出された後,クラリネットが引き継ぎます。その後,コーダでに向かって盛り上がりを作っていきます。

展開部はホルンとファゴットの演奏で始まり,独奏楽器群の技巧的な見せ場が続きます。特にオーボエの技巧的なパッセージが聞きものです。再現部は型通り,簡潔に進みます。第2主題をホルンが朗々と演奏するのが印象的です。コーダの前に,長大なカデンツァが入るのも聞き所となります。

第2主題 アダージョ,変ホ長調,4/4,ソナタ形式
通常,第2楽章は第1楽章とは別の調性で書かれるのですが,この曲は第1楽章と同じ変ホ長調となっています。この点もこの曲の謎の一つです。第1楽章同様,弦楽器のユニゾンによるイントロで始まります。

第1主題はファゴットから順に分散和音を重ねていった後,オーボエが旋律的な主題を提示します。これをホルン,クラリネットなどが歌い継いで行きます。第2主題はオーボエが演奏した後,クラリネットが受ける形で始まります。

展開部はファゴットによる印象的な短調のメロディで始まります。それをオーボエが受けた後,穏やかが気分のまま,再現部に入ります。再現部では演奏する楽器が入れ替わっていますが,基本的に呈示部と同様です。

第3楽章 アンダンティーノ・コン・ヴァリアッツィオーネ,変ホ長調,2/4
主題と10の変奏から成る楽章です。主題は鼻歌まじりに歌えそうな軽快で親しみやすい小唄風のものです。ファゴットと弦楽器によるピツィカートの伴奏の上で,オーボエが上機嫌に歌います。これに続く終結部はその後の変奏でもあまり変奏されずにそのまま出てきますので,ルフランのような役割を果たしています。

続く10の変奏は独奏楽器の技巧を巧く引き出すように作られており,次々と沸いて出てくるように続きます。通常,変奏の中の1回ぐらいは短調になるパターンが多いのですが,この楽章では最初から最後まで長調が続きます。最後の第10変奏で一旦テンポを落とした後,6/8のアレグロになり,全曲が華やかに結ばれます。(2005/10/01)