中田喜直 Nakata
■雪の降るまちを
日本の雪国のイメージを歌った国民的名曲です。この曲は,もとはNHKラジオのドラマのために作られたものです。台本が短かったためにできた空白の時間を急遽穴埋めするために,台本担当の劇作家・内田直也がパパっと作詞し,音楽担当の中田喜直がパパッと作曲したのがこの曲です。即席に作られた曲とは思えないほど落ち着いたムードがあるのが面白いところです。

曲は短調で始まります。この「雪の降るまちを」の部分のメロディはショパンの幻想曲とそっくりと言われていますが,歌詞とあまりにもよくマッチしているので,ショパンの方が真似をしているようさえ思えます。

この曲が人気があるのは,途中,短調から長調に転調する部分の鮮やかさによります。淡々と暗い雰囲気で進んで来た後,「遠い国から落ちてくる」の部分で突然明るい光が差してきて,気持ちが暖かくなるような感覚になります。最後の部分にも,どこか遠くに連れ去られていくような余韻が漂います。

この曲はその後ダークダックスなどによって歌われ,愛唱歌として親しまれるようになります。この曲に歌われている「雪の降るまち」というのが,具体的な土地をイメージしているのかどうかはっきりしませんが,山形県鶴岡市にはこの曲のモニュメントが立ち,市民は,この曲を「市歌」のようにして歌っているそうです。

作曲者の中田喜直は,ある縁があって毎年のように鶴岡市を訪れていましたが,ある時,大雪の中に上弦の月がかかるとても幻想的な夜に出会いました。「この夜をイメージしたのですか?」という質問に対し「そうかもしれません」と答えたのが「雪の降るまち=鶴岡市」説の理由のようです。

(参考)唱歌・童謡ものがたり/読売新聞文化部.岩波書店,1999(2003/12/09)