西村朗 Nishimura
■鳥のヘテロフォニー

西村朗が1993年にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のコンポーザ・イン・レジデンスj時代に作曲した曲です。初演者の岩城宏之指揮OEKは,現代作品としては異例なほど,この曲を再三実演で取り上げており,OEKのレパートリーになっています。OEKが録音したCDシリーズ「21世紀へのメッセージ」の第1巻にも収録されています。

西村は,「〜のヘテロフォニー」というタイトルの曲をいくつか作っています。この語を辞書で調べてみると「同一の旋律を複数のパートが少しずつ違ったやり方で同じに進行すること」と書いてありました。分かったような分からないような説明ですが,同じではないけれども似た旋律をいろいろな楽器で同時に演奏して,効果を出すということでしょうか?ヘテロの反対なので,ホモフォニーの対語かなと思ったのですが,ポリフォニーという言葉もあるので,その関係はややこしそうです。

ただ,曲の方は,それほど難解ではなく,響きやリズムの多様性を満喫できる曲になっています。「鳥」を題材とした曲の中でも面白い曲の一つなのではないかと思います。西村氏がCDのライナーノートに書いているとおり,インドネシアのガムランやケチャといった楽器の影響も受けており,熱帯的で原始的な雰囲気も漂っています。20世紀後半の日本の管弦楽曲の中では(OEKのお陰で),もっとも頻繁に演奏されている曲の一つだと思います。

曲は何かが出てくるのを待つような不安定な響きで始まります。しばらくすると,弦楽器から”鳥”のさえずりをイメージさせるような音型があちこちから出てくきます。この曲中の鳥は,可愛くさえずる鳥というよりは,結構神経質でささくれ立ったような響きを出します。打楽器がパシっと入ると,さらに鳥の数が増えてきます。この辺は拍子の感覚がないのですが,ティンパニが徐々にリズムを刻んで入ってきて,徐々に野性的に盛り上がってきます。

弦と打楽器で気持ち良いテンポで展開していった後,混沌とした感じになってきます。管楽器のロングトーンの音は和楽器の笙のような感じです。続いて,弦楽器の高音が微妙にズリ上がっていく部分になります。クリスタルグラスのような静かで透明な響きの部分がしばらく続きます。

再度,細かい音の動きが出てきます。フォルティシモになったと思ったら急に静かになったりと音の強弱の対比が激しい部分が続きます。鋭いアクセントが弦楽器に出てくると変拍子のエキゾティックが雰囲気になります。また,最初のささくれだった鳥のイメージに戻ります。この辺りのリズムの微妙な変化は非常に楽しめます。同じようなリズムが徐々に変化していくうちに陶酔的な雰囲気になってきます。ラテン系のパーカッションが入ってくると,熱帯の鳥という感じになります。ティンパニが入り,バルトークとかストラヴィンスキー辺りの雰囲気になり次第にエネルギーが蓄えられていきます。テンポが少し遅くなった後,大太鼓が入り,クライマックスを作って,そのままエネルギーを放出するかのように終わります。(2002/10/04)