パガニーニ Paganini

■ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調,op.6
パガニーニは「ヴァイオリンの鬼神」などと呼ばれていましたが,自作の楽譜を他人に渡さなかったこともあり,譜面がきちんと残っていない作曲家です。ヴァイオリン協奏曲もかなり作曲したようですが,現在残っているのは6曲だけです。その中でも最もよく知られているのがこの第1番です。当然,ヴァイオリンの技法が満載されていますが,それに加え,いかにもイタリアの作曲家らしい,明るさとエネルギーと歌に満ちているのが大変魅力的です。

パガニーニは,この曲を演奏する際,技巧を緩和するために,弦を半音上げて調弦し,ニ長調の譜面どおり演奏すると変ホ長調の音が出るように演奏したと言われています(こういう調弦のことを「スコルダトゥーラ」と言います)。このことによって曲の輝かしさが増したと言われていますが,パガニーニ時代より標準ピッチが高くなった現在では,譜面どおりニ長調で弾くのが普通です。

この曲は,ショパンのピアノ協奏曲同様,オーケストレーションの未熟さを指摘されることのある曲です。実際,オーケストラのパートは単純明快です(「ジャーン」「ブンチャチャチャ」がほとんどという感じです)。自分の技巧を盗まれることを恐れたパガニーニは演奏会直前までオーケストラに楽譜を渡さなかったと言われています。そのためあまり練習しなくても弾けるような書き方をしています(演奏後には再度譜面を回収)。そのこともあり,従来からさまざまなヴァイオリニストによる編曲版で演奏されて来ました。ウィルヘルミ版,クライスラー版,カール・フレッシュ版といったものがよく知られていますが,近年はオリジナルの形で演奏されることが多くなってきています。ショパンのピアノ協奏曲の場合もそうですが,何と言われようと,オリジナルに勝るものはないようです。

第1楽章
全体で20分ほどもかかる堂々たる楽章です。協奏的ソナタ形式の形を取っていますが,論理的に組み立てられているというよりは,多彩なメロディが沸いて出るような作りになっています。

オーケストラによる重々しく堂々とした序奏に続いて,「鳴り物入り」という感じでシンバルを交えた溌剌と弾むような行進曲調のメロディが出てきます。この明るい楽天的なノリの良さはこの楽章の基調を作っています。しばらくして美しいアリアを思わせるような第2主題が出てきます。再度,行進曲調に戻り,曲が一息付いた後,「待ってました」という感じで独奏ヴァイオリンが入ってきます。

この後はヴァイオリンの美しい歌と超絶技巧とが延々と続きます。ここで出てくる技法は,急速な3度のダブル・ストッピング(重奏),フラジオレットのスタッカート,二重フラジオレット,スピッカート奏法などで,技のデパートといった趣きになります。その分,オーケストラの方は,急に大人しくなり,「ズンチャチャチャ」という伴奏ばかりになります。

展開部では再度,オーケストラによる行進曲調が戻ってきます。しばらくすると,独奏ヴァイオリンが大見得を切るようにたっぷりとした音型を演奏し,暗くしみじみとした部分になります。この辺りオーケストラは「ジャーン」とばかり演奏しています。再度,活発な動きが独奏ヴァイオリンに戻ってきた後,第2主題が水も滴るようにたっぷりと演奏されます。

再度,行進曲調の部分が出てきた後,独奏ヴァイオリンによるカデンツァになります。このカデンツァは,エミール・ソーレによるものが良く知られています。カデンツァの後,元気の良い行進曲が戻ってきて,明るく楽章が締めくくられます。

第2楽章 
イタリアの名優ジュゼッペ・デ・マリーニの演じるドラマの中の囚人の祈りのシーンを音楽化したものと言われています。その真偽は不明ですが,まさにドラマの一場面を思わせるようなドラマと歌を感じさせる楽章となっています。管弦楽による劇的な開始に続いて,情熱のこもったカンタービレと叙情的な気分とが対比を見せながら交錯する,美しい楽章です。

第3楽章
前楽章から引き続き演奏されるロンド形式による楽章です。ロンド主題は弾むような伴奏に乗って独奏ヴァイオリンに軽快に出てきます。この主題では,スタッカート・ボランテ(跳躍的なスタッカート奏法)という技法が使われています。流麗な副主題に,フラジオレットの重音などが折り込まれ,ここでも華麗な名人芸が沸き立つように出てきます。オーケストラの方は第1楽章と似た感じの「ジャン」と「ズンチャチャチャ」が中心ですが,それに乗る独奏ヴァイオリンの華麗な動きと合わさると,全く飽きることなく響きます。最後は華やかな響きで明るく結ばれます。(2005/11/22)