プーランク Poulenc

■音楽物語「小象ババールのお話」

「小象ババールのお話」は,プーランクが,ジャン・ド・ブリュノフ作の同名の絵本に音楽を付けた作品です(矢川澄子訳の日本語版のタイトルは「ぞうのババール」です。一般にはこの呼び名で通っています)。親戚の子供たちがこの作品に夢中なのを見て,この作品に音楽を付けることを思い付きました。幸いプーランクとブリュノフとは友人で,曲をつけることを快諾してくれました。1940年に作曲を思いついた後,第2次世界大戦による中断があり,終戦の年の1945年に再度作曲に取りかかりました。この曲は,子供たちの期待を裏切らないようにプーランクが心をこめて作曲した曲といえます。

この曲はもともとは,ピアノ(1台または2台)と語り手のために作曲されています。台本はブリュノフの絵本とほぼ同じですが,原作にある「デパート」の部分が省略されています。その他,ジャン・フランセがプーランクの許可を得て,オーケストラ版に編曲を行っています。完成したのは,プーランクの死の直前の1962年です。

この曲のストーリーは,ババールという子象の成長を描いています。森の中で生まれたぞうのババールは,すくすく成長しますが,悪い狩人に母を撃たれ,天涯孤独になってしまいます。街に出ていって,親切なおばあさんに助けてもらい,そのおばあさんの家で暮らすことになります。おばあさんは,ババールに何でも好きなものを買ってくれましたが,ババールは次第に森の生活が恋しくなります。2年経ったある時,ババールのいとこの2頭の子象が遊びに来ます。ババールは一緒に森に帰ることにします。ちょうどその時,森の象の王様が毒キノコを食べて,亡くなってしまいます。象の長老たちは,人間と暮らして賢くなったババールを王様に選ぶことにします。ババールはいとこのセレストとの結婚を条件に王様になることを承諾します。結婚式と戴冠式を兼ねたパーティが終わり,ババールは満ち足りた気分になります。

次のシーンを彷彿させるような音楽が付けられており,その間にナレーションが入ります(以下の曲の番号は私が便宜的に付けたものです)。
1:母象がババールをゆりかごで寝かしつける子守唄
2:元気に遊ぶババール。
3:母象の背中に乗るババール。狩人が鉄砲で母象を撃ち,死んでしまいます。
4:逃げるババール。この辺は緊迫感があります。
5:親切なおばあさんに感謝するババール。ゆったりとした曲

***原作では,この後,ババールがデパートで遊ぶシーンが入りますが,プーランクは音楽を作っていません。***

6.毎朝体操し,一人でお風呂に入るババール。ユーモラスな体操を彷彿とさせる曲
7.おばあさんの買ってくれた自動車で毎日ドライブ。オーケストラ版ではクラクションなどが入ります。
8.森の生活や友人を思い出し寂しくなるババール。メランコリックな曲。
9.いとこの象アルチュールとセレストに再会して喜ぶシーン。
10.喫茶店に入り,美味しいケーキを食べるシーン。優雅で沸き立つようなワルツ。
11.森で2匹の象を心配しているシーン
12.街で2匹を見つけたというハゲコウのじいさん。
13.2匹を連れ戻しに行ったかあさんたちの小言。
14.森に帰ることにしたババールとおばあさんとの別れのシーン。繊細な情感に溢れた曲。
15.森に向かって出発。車の後を象がダッシュするような雰囲気があります。
16.毒キノコを食べてしまった象の王様
17.象の王様は病気になって,とうとう死んでしまいました。
18.ババールが象の国の新しい王様になることを喜ぶ華やかな音楽。
19.ババールの結婚式と戴冠式を兼ねたパーティのためにお客を呼びに行く鳥たち。高音のキラキラした音色が印象的。
20.らくだに街までお使いを頼む,重々しい音楽。
21.結婚式兼戴冠式の場。重厚さと華やかさを兼ね備えた音楽。
22.楽しいダンスパーティ。リズミカルで明るい音楽が気分を盛り上げます。途中から小鳥のオーケストラが加わってきます。
23.宴の後の夜のシーン。星の輝きを描写しています。幸せと静かさに包まれた音楽です。
どの曲にも,ウィットと沸き立つような魅力が溢れ,物語を盛り上げています。

ちなみに「ぞうのババール」には続編も作られています。ジャン自身が書いた続編以外にジャンの息子のロランが書いた作品もあります。音楽の方にも「ババールの新婚旅行」という曲があるようです(プーランク以外の作曲です)。(2004/05/22)