プロコフィエフ Prokofiev

■バレエ組曲「ロメオとジュリエット」

シェイクスピアの有名な悲劇「ロメオとジュリエット」は,「ウェストサイド物語」のようにミュージカルとしてリメイクをされたり,チャイコフスキーの序曲をはじめとして,いろいろな音楽作品の題材になったりしていますが,バレエとしていちばん有名なのは,このプロコフィエフの作品です。この曲は全体で2時間30分ぐらいかかる大作ですので,一般のコンサートなどでは組曲版の方がよく聞かれます。ここでも組曲版に収録されている曲について説明をします。この曲では,全曲に渡ってライトモチーフが使われているのが特徴です。それらがバレエを分かりやすいものにしています。

組曲は,管弦楽用組曲が3つ,ピアノ独奏用組曲が1つあります。それぞれ出版時期と作品番号が違っています。次のとおりです。
  • 組曲第1番 1936年11月初演,作品64bis
  • 組曲第2番 1937年4月初演,作品64ter
  • 組曲第3番 1946年3月初演,作品101
  • ピアノ小曲集 1937年初演,作品75
バレエ全曲の初演は1938年にチェコスロバキアのブルノで行なわれ,ソビエトでの初演はさらに後の1940年に行なわれていますので,組曲版の方が先に初演されたことになります。レニングラードでバレエ版を初演しようとしたとき,「踊りに不向き」と酷評され,初演が流れたためです。初演版ではソビエト当局の指導もあり,「ロメオが早く墓場に到着し,ジュリエットが生きているのを見つけた」というハッピーエンド(!)になっていたのですが,これも不評の理由の一つだったようです。

その後,原作どおりの「悲劇」に改訂し,上述のとおり1938年にブルノで上演した結果,大成功を収めました。現在では20世紀を代表するバレエとしての地位を確立してます。

管弦楽組曲版は,3つ併せて合計20曲から成っています。バレエの順とは違っており,曲名も一致しませんので,バレエ版の曲順・曲名ととともに紹介しましょう。実際のコンサートやCD録音では,指揮者の好みによって,これらから取捨選択して演奏されることもよくあります。

●組曲第1番op.64bis
1.民族舞踏(第2幕第1場,第22曲)
ヴェロナの町の広場の場での生き生きとしたタランテラ風の踊り。

2.情景(第1幕第2場,第3曲街の目覚め)
ヴェロナの町の日曜の朝の活気のある情景をファゴットなどを中心に軽妙に描いています。

3.マドリガル(第1幕第4場,第16曲)
キャピレット家の舞踏会場で,ロメオとジュリエットが出逢う場の音楽。その場に相応しくロマンティックなメロディが溢れるように出てきます。これはロメオを表し,フルートに出てくるメロディはジュリエットを表します。その後,オーボエに出てくるメロディは「ジュリエットの愛の目覚め」の主題です。

4.メヌエット(第1幕第3場,第11曲客人たちの登場)
キャピレット家の外。舞踏会に招かれた客人が着飾って屋敷に入っていく場面の音楽。開宴を示すような演重量感のある音型に続いてきびきびしたメヌエットが続きます。中間部にはコルネット独奏が入ります。

5.仮面舞踏会(第1幕第3場,第12曲仮面)
前曲メヌエットに続く場の音楽。マーキューシオはロメオとベンヴォーリオを誘い,仮面で変奏して宿敵のキャピュレット家に忍び込みます。トライアングル,タンブリン,小太鼓の軽妙なリズムが印象的なプロコフィエフらしい行進曲です。

6.ロメオとジュリエット(第1幕第5場,第19曲バルコニーの情景)
舞踏会の後,バルコニーでロメオとジュリエットが静かに愛を語る場です。ここでもヴァイオリンがロメオで,フルートがジュリエットです。その後,音楽は盛り上がり,「ジュリエットの愛の目覚めの主題」がイングリッシュホルンとチェロで演奏されます。

7.タイボルトの死(第2幕第3場,第34マーキュシオの死〜35曲ロメオはマーキュシオの死の報復を誓う)
親友マーキューシオを殺されたロメオがタイボルトに決闘を申し込み殺してしまう場。全曲中特にドラマティックで,よく知られた音楽です。急速なテンポでスリリングに演奏される前半と重々しく演奏される後半の対比が非常に劇的で,すべてのオーケストラ音楽の中でも特に演奏効果の上がる曲です。

最初,マーキュシオの快活な主題が出た後,激しい戦いが始まり,最後は管弦楽の強烈な打音が延々と続く3拍子の葬送行進曲になります。オーケストラの名技性が凝縮されたような素晴らしい作品です。

●組曲第2番op.64ter
1.モンタギュー家とキャピュレット家(第1幕第4場,第7曲大公の宣言+第14曲騎士の踊り)

舞踏会の場での騎士たちによる威圧的で重々しい踊り。バレエ「ロメオとジュリエット」といえば,まずこの曲を思い出すほど,印象的な音楽です。まず最初に,不協和音交じりの強烈な響き(バレエ版第7曲の「大公の宣言」が縮小されたもの)が出てきた後,「騎士の踊り」の部分になります。金管楽器の和音の上に付点音符付きのメロディが上下する音楽です。途中,「反目の主題」と呼ばれる不気味なメロディが金管楽器で演奏されます。中間部では,ジュリエットが入ってきて,パリスと踊ります。フルートを中心とした静かな美しさが非常に印象的です。

2.少女ジュリエット(第1幕第4場,第10曲)
舞踏会を前にした控えの間でのジュリエットの揺れる気持ちを描いた音楽。駆け上がるようなヴァイオリンのキビキビした音形を木管楽器が受けるようなメロディです。その後,憧れに満ちたようなメロディがクラリネットやフルートで演奏されます。

3.僧ローレンス(第2幕第2場,第28曲ローレンス草庵でのロメオ)
僧ローレンスの訪ねてジュリエットとの結婚を願うロメオを描いた音楽。チェロの暖かいメロディを中心に穏やかで人間味のある音楽が続きます。

4.踊り(第2幕第1場,第24曲5組の踊り)
ヴェロナの町の広場で芸人たちがカーニバルを盛り上げるために踊る音楽。小太鼓,ハープ,ピアノなどが刻むリズムの上で,オーボエがスラブ風のメロディを演奏します。

5.別れの前のロメオとジュリエット(第3幕第1場,第39曲ロメオとジュリエットの別れ)
タイボルトを殺したためにマントヴァに追放されることになったロメオがジュリエットに分かれを告げるために寝室を訪れる場での音楽。静かなアダージョで二人の心情を描いた後,次第に音楽は悲壮感を帯び,高潮していきます。

6.アンティーユ諸島からの娘たちの踊り(第3幕第3場,第49曲百合の花を手にした娘たちの踊り)
両親が決めた許婚パリスとジュリエットの偽の結婚式の場の音楽。マラカスやタンブリンのリズムの上にヴィオラなどがメランコリックで優雅な主題を演奏します。

7.ジュリエットの墓の前のロメオ(第4幕エピローグ)
全曲の最後の幕の音楽。マントヴァから駆けつけたロメオは既に亡くなっているジュリエットを抱き上げ,自らの死を決意します。悲痛な主題の後,重々しい歩みに音楽は変わって行きますが,最後はあきらめを示すような明るい和音で静かに結ばれます。

●組曲第3番op.101p
1.噴水の前のロメオ(第1幕第1場,第2曲ロメオ)
ヴェロナの町の広場をひとり歩くロメオを描いています。少し憂いを含んでいます。

2.朝の踊り(第1幕第1場,第4曲)
喜びに溢れるヴェロナの町の人々の様子を描いています。

3.ジュリエット(第1幕第4場,第14曲ジュリエットのヴァリアシオン+第3幕第2場,第44曲ローレンス草庵にて)
舞踏会に初めて登場するジュリエットの心情と愛のために死を恐れない情景とをつなげた音楽

4.乳母(第2幕第2場,第26曲乳母の祈り+第1幕第2場,第9曲舞踏会の準備)
ジュリエットが乳母を相手に戯れる音楽

5.朝の歌(第3幕第3場,第18曲ガヴォット:客人たちの退場)
客人たちが退場する場の音楽。軽妙な音の動きが印象的です。

6.ジュリエットの死(第4幕エピローグ,第52曲ジュリエットの死)
眠りから覚めたジュリエットがロメオの死を知り,短剣で自らの胸を刺して死んでいく場の音楽。ジュリエットの憧れを示すような満ち足りた音楽が続きます。明るい和解の和音でバレエ全体が結ばれます。(2005/11/13)