プロコフィエフ Prokofiev

■ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調, op.19

プロコフィエフがペテルブルク音楽院を卒業した後,「コンチェルティーノ(小協奏曲)」として書き始め,本格的な協奏曲としてロシア革命の頃に完成した作品。同時期に作られた曲には「古典交響曲」などがあります。

曲は3楽章構成ですが,テンポ設定は一般的な形とは逆で「緩−急−緩」。抒情的な2つの楽章が急速なスケルツォ風の中間楽章を囲む形になっています。聴きどころは,第1楽章や第3楽章に出てくる夢見るような詩情を持った主題と第2楽章での生命力あふれる奇抜な雰囲気の対比でしょうか。

作曲に当たっては,ポーランド出身の名ヴァイオリニスト,コハニスキの助言を得ており,独奏ヴァイオリンには,スタッカート,ピチカート,二重フラジオレット,スル・ポンティチェロなど多彩な技法が使われています。その音域も幅広いのですが,独奏者だけが目立つのではなく,「オーケストラの中から沸き上がり再びオーケストラへ溶けこむ(ロシアのヴァイオリニスト,ヤンポリスキーの指摘)」ような特徴もあります。詩的情緒と鮮烈な色彩感,躍動感とのバランスの良い,プロコフィエフの新古典的作風の代表作の一つと言われています。

初演は,ロシア革命とその後の亡命生活のためかなり遅れ,1923年にパリでクーセヴィツキー指揮の演奏会で行わました。独奏ヴァイオリンについては,フーベルマンら著名なヴァイオリニストたちに打診しましたが,いずれも断られたため,コンサートマスターのマルセル・ダリューが演奏することになりました。

そういったこともあってか,初演時の評判はよくありませんでしたが,翌年シゲティがプラハで演奏した時は大成功。シゲティはその後も熱心にこの曲を取り上げ,この曲の認知に大きく貢献しました(ヴァイオリン協奏曲第2番の方はハイフェッツが積極的に取り上げたのと好対照です)。
  • 作曲年:1915〜17年
  • 出版:1921年
  • 初演:1923年10月18日パリ
  • 編成:独奏ヴァイオリン,フルート2(ピッコロ持ち替え),オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット2,チューバ,ティンパニ,タンバリン,タンブール・ミリターレ,ハープ,弦五部
第1楽章 アンダンティーノ ニ長調 6/8 ソナタ形式
ヴィオラのトレモロに導かれて,独奏ヴァイオリンが牧歌的な第1主題を息長く演奏します。この主題は幅広い音域に及ぶもので若きプロコフィエフの才能の豊かさを感じさせるものです。この主題に,クラリネット,フルートが対旋律を重ね,弱音器を付けた第1ヴァイオリンも加わって曲は進行していきました。独奏ヴァイオリンは,跳躍やトリルを伴って転調を繰り返しながら,音楽は盛り上がっていきます。

その後,拍子が4/4に変わり,明確なリズムを持った第2主題が出てきます。ここでも跳躍,装飾音,半音階的進行などが独奏ヴァイオリンに折り込まれ,ファゴットや低弦楽器と対比感を生み出し,華麗に変奏していきます。一旦静かになり,クラリネットとフルートのオクターブの重奏とピチカートで演奏する独奏ヴァイオリンとが重なり合う部分となり,呈示部は終了します。

展開部は激情的でエネルギッシュで,独奏ヴァイオリンが休むことなくトッカータ風の世界を繰り広げます。16分音符の細やかな動きの中で2つの主題は徹底して分解・展開されます。オーケストラ・パートのオスティナート音型と独奏ヴァイオリンの多調的展開の後,再現部になります。

再現部は短く,第1主題だけが登場します。ここでは室内楽風の静かで穏やかな伴奏がこれを支えます。弱音器を付けた独奏ヴァイオリンによる32分音符の装飾旋律など,夢幻的な気分に包まれます。フルートによる第1主題,ハープのアルペジオの中,楽章は締めくくられます。

第2楽章 スケルツォ ヴィヴァーチッシモ イ短調 4/4 ロンド形式
A-B-A-C-Aの5つの部分から構成される,スピード感と力と意志のあふれる印象的なスケルツォ楽章。プロコフィエフの最もすぐれたスケルツォの一つと言われています。

ロンド主題Aは,鋭いリズム,アクセントを持つ「いかにもプロコフィエフ」といった感じの才気を感じさせるものです。フルート,ハープ,弦楽器などによる伴奏はバラライカの響きを連想されます(「スコロモーヒ」というロシアに伝統的な放浪の吟遊詩人の唄の影響があるとも言われています)。

第1エピソードBは,スタッカート・マルカーティッシモという表示で,ゴツゴツと力強く演奏されます。第2エピソードCは,スル・ポンティチェロ,コン・トゥッタ・ロルツァ(駒の近くを弾くよう・全力を込めて)と指定されています。非常にグロテスクな印象を残す部分です。その他の木管楽器は単調な伴奏を重ねていきます。最後はAをフルートと独奏ヴァイオリンが引き継ぎ,力強く楽章を閉じます。

第3楽章 モデラート−アレグロ・モデラート ニ長調 4/4 変奏曲形式
弦楽器とクラリネットによる単調なスタカートの和音の上に,ファゴットがおどけたメロディを重ねます(「ピーターとおおかみ」のおじいさんが入ってきた感じ)。続いて,独奏ヴァイオリンが主要主題を呈示します。次第に美しい詩情のあふれる息の長い歌に変わっていきます。

アレグロ・モデラートにテンポが変わった後,ヴィオラに副次主題が登場し,第2ヴァイオリンなどが執拗に繰り返します。独奏ヴァイオリンは主要主題の冒頭部分を変奏したパッセージをこれに重ねていきます。オーケストラによる力強いフレーズが入って,クライマックスを築きます。これを繰り返した後,メーノ・モッソの部分になり,ややテンポを落として,独奏ヴァイオリンが主要主題を自由に変奏していきます。

独奏ヴァイオリンは,トリルを効果的に使いながら高音域で歌い続け,ハープのアルペジオが加わるなど夢幻的な気分が続きます。2オクターブに及び音階進行とトリルなど,ヴァイオリニストの演奏を刺激するような華やかなパッセージの連続です。そして,テューバ,ファゴット,チェロなどによるフーガになります。

楽章最後はピウ・トランクイロ(より静かに)となり,第1楽章の第1主題を独奏ヴァイオリンが,第3楽章の主要主題を木管楽器が再現。両者が一体となった豊かな色彩感の中で静かに終了します。

(参考文献)
プロコフィエフ(作曲家別名曲解説ライブラリー;20) 音楽之友社, 1995

(2021/07/23)