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プッチーニ Puccini
歌劇「トゥーランドット」 Turandot

2006年のトリノ冬季オリンピック以来,日本では,「トゥーランドット」といえば,”荒川静香さん””金メダル”"フィギュア・スケートの音楽"という感じですが,オペラ史的には,「最後の有名オペラ」と言えます。この作品は,プッチーニの遺作として,1926年にミラノ・スカラ座で初演されましたが,その後,作られたオペラで世界のオペラ・ハウスで常に上演されるような基本的なレパートリーとして定着しているものは,ほとんどありません(R.シュトラウスがいくつか書いていますが,「サロメ」「ばらの騎士」ほどは定着していません。ブリテン,プーランク,ヤナーチェク,ショスタコーヴィチなどもオペラを書いていますが,彼らの他の曲ほどは親しまれていません。)。その後,劇場用の音楽の中心は,オペラからミュージカル・映画へと移っていきますので,「芸術と娯楽の王」としてのオペラ史最後の輝きを示す作品と言えます。豪華絢爛たるエキゾティズム溢れる作風は,いかにもプッチーニらしく,文字通り,彼の人生の総決算となっています。

タイトルのトゥーランドットというのは,中国の伝説の時代の王女の名前です。「アイーダ」,「カルメン」,「トスカ」などの有名オペラ同様,タイトル役がオペラの題名になっていますが,違うのは,主役が最後まで健在だという点です。準主役のリューが亡くなりますので,純粋にはハッピーエンドとは言えないのかもしれませんが,悲劇が多い名作オペラの中では例外的に晴れ晴れとした雰囲気で終わります。

ただし,プッチーニは,この曲を完成させることなく亡くなっています。最後の部分については,弟子のアルファーノがプッチーニのスケッチを基に補作したものとなっています。「実は悲劇にしたかった...」ということは,まずないと思いますが,プッチーニ自身が作っていたら,また別の終わり方だった可能性はあります。

物語は,ペティ・ド・ラ・クロワが1710年〜1712年に出版した『千一日物語』の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」をヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴッツィが1762年に戯曲化したものに基づいています。「トゥーランドット」を題材とした音楽作品は複数存在するのですが,現在では,このプッチーニのオペラが圧倒的によく知られています。

このオペラは,時代不詳の中国を舞台とした物語です。神秘的な宮殿の奥に住むトゥーランドット姫と,彼女の出す3つの謎に答えて,氷のような姫の心を溶かした皇子カラフによる,スケールの大きなファンタジックなオペラです。この2人にトゥーランドットと全く反対のキャラクターを持つリューが絡み,ドラマを大きく盛り上げます。群衆を表現する合唱のウェイトが大きいのもこの作品の特徴のひとつです。

その他,「蝶々夫人」同様,その土地土地の民謡などが巧みに引用・転用されている。この作品では,その素材を,長年中国領事として駐在していたファッシーニ男爵所有のオルゴールから得たといわれています。。

主要な登場人物とその声のキャラクターは,次のとおりです。
  • トゥーランドット姫(ソプラノ:超ドラマティク・ソプラノ)
  • 中国の皇帝アルトゥーム,トゥーランドットの父 (テノール: ”蚊の鳴くような声”で歌う必要があるためテノーレ・ブッファが担当することが多い)
  • ティムール,故国を追われた盲目の廃王 (バス:バッソ・カンタンテ
  • 名前の知れない王子(実はカラフ),ティムールの息子 (テノール:リリコ・スピント)
  • リュー,若い娘。ティムールと王子に仕え、王子に密かに想いを寄せる召使 (ソプラノ:ソプラノ・リリコ)
  • ピン,皇帝に仕える大蔵大臣 (バリトン):ピン,ポン,パンは3人トリオを組んで登場。小さなコーラスとしての性格を持つ(かつての子供向けテレビ番組「ママとあそぼう!ピンポンパン」の由来になっているとWikipediaには書いてありましたが...真偽は不明です)
  • パン,内大臣 (テノール)
  • ポン,総料理長 (テノール)
  • 役人(バリトン)
  • ペルシアの王子(テノール)
  • プー・ティン・パオ,首斬役人:歌はうたいません。

楽器構成は,次のとおりで,プッチーニの作品の中でも最大規模です。
  • ピッコロ,フルート 2,オーボエ 2,コーラングレ,クラリネット 2,バス・クラリネット,ファゴット 2,コントラファゴット
  • ホルン 4,トランペット 3,トロンボーン 3,コントラバス・トロンボーン
  • ティンパニ,トライアングル,小太鼓,大太鼓,シンバル,タムタム,音程つき中華銅鑼,グロッケンシュピール,シロフォン,バス・シロフォン,チューブラーベル,チェレスタ,ハープ 2,オルガン
  • 弦五部
  • 舞台上・舞台裏:アルト・サクソフォーン 2,トランペット 6,トロンボーン 3,バス・トロンボーン,ウッドブロック,タムタム

原作: カルロ・ゴッツィ
台本: ジュゼッペ・アダーミおよびレナート・シモーニ
初演: 1926年4月25日,ミラノ・スカラ座,アルトゥーロ・トスカニーニ指揮
時と場所:いつとも知れない伝説時代の北京

第1幕
北京の宮殿(紫禁城)の城壁前の広場。夕陽が西の空に沈もうとしている。広場は,沢山の群集で埋めつくされている。

プッチーニの他のオペラ同様,序曲なしでドラマが開始します。最初にユニゾンで力強く出てくる東洋風の動機は,トゥーランドットのきつい性格を表すもので,その後もたびたび登場します。

大銅鑼の響きとともにダッタンの護衛を従えた役人が城壁の上に姿を現し,皇帝の布告を群衆に読み上げます。「トゥーランドット姫に求婚する男は,彼女の出題する3つの謎を解かなければならない。解けない場合その男は斬首される。今日も謎解きに失敗したペルシアの王子が,月の出とともに斬首される」

この部分では,鋭い和音が複調的に連打され,すっきり解決しない気分を作ります。その後,シロフォンが東洋的な気分を盛り上げる音型を演奏します。

布告の途中で,「アー」という嘆息が入った後,群集が騒ぎ出し,広場は混乱します。この部分は,混声合唱の大アンサンブルとなります。

その中から,「群衆の下敷きになった老人を救って!」と叫ぶ女の声が聞こえ,群衆の中から1人の青年が登場し,「父上,やっと巡りあえた」と抱き合います。ダッタンの旧王のティムールとその息子カラフ,ティムールの忠実な女奴隷リューがここで再会する。この部分で,滑らかに下降するように出てくるのメロディは,リュウのテーマと言っても良いものです。

死刑の執行を告げる不気味なドラムがなり,斬首役人プー・ティン・パオとその12人の手下が群衆の歓呼に迎えられて登場します。「砥石を回せ,斧を砥げ」というはやし立てるような合唱になり,複数の調性を行き来しながら,次第に熱狂が増します。

曲調が一変して落ち着きます。夕陽は沈み,辺りは夕闇に包まれています。群衆は月の出を待ちかねて歌い出し,中空に上った蒼い月の美しさをたたえます。印象派風の雰囲気が美しい部分です。

続いて,遠くから子供たちの合唱で,「東の山の頂きで鵠がうたった...」という憧れに満ちた合唱がのんびりと始まります。ここでは舞台裏でアルト・サクソフォンも演奏をしています。このメロディは,中国の古い民謡の「東天紅」によるもので,このオペラの中では公式のトゥーランドット姫のテーマとしてたびたび登場します(日本人が聞くと,どうしても「やーまのお寺の鐘が鳴る」と聞こえるテーマです)。

続いて,静かに死刑台にひかれていく顔面蒼白の若いペルシャ王子を先頭にした行列が葬送行進曲のテンポで登場し,残忍な熱狂に酔っていた群衆も,一変して王子への憐れみの気持ちに襲われます。その時,宮殿の柱廊の上に月光に照らし出されてトゥーランドットが,堂々と演奏される「東天紅」のテーマと共に美しい姿を現します。姫はあざけるような身振りを示すだけで,ここでは歌いません。オペラのプリマドンナの初登場の場面で一言も歌わないというのは珍しいのですが,これが姫の冷酷さをかえって強く印象づけます。

再び死刑者の行列は動き出し,群衆もその後に続きます。カラフは,この間に,トゥーランドット姫の美しさに心を奪われてしまいます。ティムールとリューは王子を促して立ち去らせようとしますが,トゥーランドットの名を呼んで動こうとしません。

その時,城壁の彼方から,ペルシャ王子の悲痛な断末魔の叫びと群衆の「アー」といった悲鳴が聞こえてきます。カラフは,立候補を告げる大銅鑼に歩み寄るが,その時,仮面をつけた3人の男が飛び出し,王子を遮ります。

この3人は,ピン,ポン,パンの3大臣です。その後も常に3人セットで,狂言まわしのようにコミカルに登場します。ここで使われているメロディは,1912年制定の清国の国歌から取られています。この部分ですが,バリトンのピンが最上の声部を歌い,テノールの2人(ポン,パン)が下の声部を歌うという変わった組み合わせになっています。

カラフは,3人の手を押しのけて銅鑼に向かいますが,どうしても通そうとしません。この騒がしさに,侍女(9人のソプラノ)が手を上げて制止します。3大臣は,逆に侍女たちに文句をつけ,彼女たちを宮殿の中に引っ込ませます。

音楽が不気味な感じの不協和音に変わり,今度は,城壁の上にトゥーランドット姫によって命を奪われた様々な王子たちの亡霊が現れます。そして,カラフに向かって,「早く姫を呼び出してくれ。私たちはもう一度姫に会いたいのだ」と歌いかけます。カラフは怒って,「姫を愛するのはこの私だけだ」と言い返す。

次いで,城壁の上に殺されたばかりのペルシア王子の生首を手にした首斬役人が現れます。それを見た3大臣は,カラフを冷笑し,ティムールもわが子の無謀な挑戦をやめさせようと絶望的な口調で嘆願します。ここでは冒頭の姫の動機が変形されて使われています。

最後にリューが涙ながらにカラフに嘆願します。ここで歌われるのが,「お聞き下さい。王子様」と歌い始めるリューによる有名なアリアです。ここまで不協和音が多用されていたので,このアリアのリリックでシンプルなメロディは清涼剤のように響きます。いかにもプッチーニらしいアリアです。

この「トゥーランドット」というオペラは,アリアの最後の部分は終結せず,次の曲につながるのですが,このアリアの後は終結した感じになりますので,実演では拍手が入ることが多い部分です。

カラフは,地上に崩れ落ちたリューを優しく助け起こし,このアリアに対する「お返し」のような感じで「泣くな,リュー」というこちらも有名なアリアを歌います。こちらの方は,そのまま,次の曲につながり,第1幕のフィナーレ部分になります。

カラフの決意は固く,もはや,誰も彼を思い止まらせることはできません。ティムールとリューは絶望して嘆き,一旦引っ込んでいた3大臣も再び現れ,皆で言葉を尽くして王子を引きとめようとします。舞台裏の合唱も,死の国の呼び声のようにカラフに歌いかける。

しかし,誰もトゥーランドットに魅惑されたカラフの心を静めるこおはできず,カラフはトゥーランドットの名を叫びながら大銅鑼を3回打ち鳴らし,自分が新たな求婚者となることを宣言します。この大銅鑼を鳴らした後,音楽はニ長調の華麗な響きに変わり,「東天紅」のテーマが鳴り響きます。それを見た3大臣があきらめの嘲笑を残して退場し,カラフは恍惚として銅鑼の前に立ち尽くします。音楽はスペクタクルな気分に満ちた圧倒的な雰囲気になり,不気味な和音を含んだ堂々たる後奏で幕となります。

第2幕 第1場 
幻想的な装飾で飾られた中国風の館の一室

ピン,パン,ポンの3大臣がそれぞれ1人ずつの従者を連れて登場し,今度,姫の夫に立候補した王子の葬式の準備を始めようと陽気に歌い始めます。ここでは,本当の民謡とそれを真似た五音音階の中国風の曲とが合わせて使われています。

脱線して,今では慣れっこになった犠牲者のことを面白おかしく歌い合いますが,今年は既に13人が首を斬られていることに気づいて「世も末」と愕然とします。不愉快な日常からの逃避を願うかのように,ピンが,夢見心地で彼らのささやかな郷愁を歌い合います。

舞台裏から聞こえる「斧を砥げ」の群衆の合唱とともに,この世を慨嘆しながら,これまでに首を斬られたサマルカンドやインドやダッタンの王子たちの思い出にふけります。「こんな調子では,いずれこの世も色恋もおさらばよ」と3人は大げさな別れの歌を斉唱します。しかし,彼らもいつかトゥーランドットの冷たい心がとけ,幸せな結婚生活に入ることを心の底では望んでいます。3人はその日の夢を語り合い,姫の露台に向かって,セレナードを歌う真似をします。

そのうちに,宮殿の中から人々のざわめきが聞こえてきて,3大臣は幸せな夢から過酷な現実へと引き戻され,あわてて部屋を出て行きます。その後,舞台裏から金管と太鼓の響きが聞こえてきて,2/4拍子の行進曲調になり,場面転換が行われます。

第2場 
宮殿の前の大広間。正面に3つの踊り場を持つ壮麗な大理石の大階段,その上に3層のアーチがそびえる。広場は,数知れぬ廷臣たちと群衆に埋め尽くされている。

ファンファーレとともに青と金の礼装に身を飾った大臣たちや8人の老賢者が群衆の歓呼の中,威厳を正して登場します。それぞれ,トゥーランドット姫の3つの謎に対する解答が収められた三幅の封印された絹の巻物を持っています。黄色の礼装に着飾った3大臣もこれに続きます。

音楽が五音階による中国調のマーチに変わり,香り高い香の匂いが広場をおおいつくし,その煙の中を白と黄色の皇帝旗,次いで軍旗が行進し,華麗なページェントが最高潮に達します。

群衆の歓呼に迎えられて,大階段上の象牙の王座に着席した老皇帝アルトゥムが一同に挨拶をのべます。非常に老齢で,糸のようにやせた身体と真っ白な顔色は神々しく見えます。オペラの世界で「皇帝」と言えば,低音の歌手が歌うのが普通ですが,それを逆手にとった意外性に富んだ設定と言えます。皇帝はカラフに向かって無謀な挑戦を思い止まるよう説得しますが,その決意は変わりません。

役人が進み出て,第1幕冒頭と全く同じ布告を読み上げた後,カラフの謎解きの場となります。

トゥーランドット姫が侍女を従えて堂々と入場し,玉座の足許に立ちます。カラフに冷たい一瞥を与えた後,何故自分がこのような謎を出題し,男性の求婚を断ってきたのかの由来を「この御殿の中で」というアリアの中で歌います。ここで初めてトゥーランドットが声を出すことになります。このアリアも大変有名なものですが,音程の大きな跳躍や高音域が多く,ワーグナーのオペラに通じるドラマティック・ソプラノ向けの曲となっています。姫の言葉にうなづくような群衆のつぶやきの声も効果的です。

ここで,トゥーランドットは「かつて美しいロウ・リン姫は,異国の男性に騙され,絶望のうちに死んだ。自分は彼女に成り代わって世の全ての男性に復讐を果たす。」「異邦人よ試みよ,謎は3つ,死は1つ」と歌います。カラフは,「いいえ,謎は3つあるが生は1つ」と言い返します。

トランペットがファンファーレを鳴らした後(これは質問のたびに繰り返されます),トゥーランドットは,「暗い闇夜に飛び交い,暁とともに消え,人の心に生まれ,日毎死に,夜毎に生まれるものは?」という第1の謎を提出します。カラフは,即座に「それは希望」と答えます。8人の賢者は第1の巻物を開いて正解であることを確認し,トゥーランドットも苦々しく肯定します。

トゥーランドットは,苛立たしげに大階段の中ほどまで下りてきて,第2の謎「炎のごとくゆらめき,燃え立ち,夕陽のごとく紅く,ある時は冷たく凍り,しかも,そのかすかな呼び声を聴きわけることが出来るものは何か」を提出します。皇帝アルトゥムさえ,カラフの味方になったように声援を送ります。

カラフは前と同じ口調で「それは血潮」と答え,8人の賢者は正解を確かめます。興奮したトゥーランドットは,大階段の下まで降りてきて,ひざまづいたカラフを睨みつけながら最後の謎「氷のように冷たいが,汝には火を注ぎ,汝を自由にまかせるかと思えば,奴隷にし,奴隷にするかと思えば汝を王とするものは誰か?」と問います。

今度はさすがにカラフも即答できず,トゥーランドットも返答を迫ります。しかし,ついにカラフは「私の勝ちだ。答えはトゥーランドット」と答えます。8賢人が巻物を改めるのに続いて,群衆は一斉に「トゥーランドット」と叫び,難問を解き当てた勝利者を讃えます。3回目の問答だけは,姫の興奮と王子の喜びを表すように半音高くなっているのが非常に効果的です。

「東天紅」による祝賀の合唱が華やかに沸き起こり,皇帝も永遠の反映を讃えますが,初めて敗北を味わったトゥーランドットは,プライドを傷つけられた怒りを顔に現し,大階段を駆け上がって,皇帝に「王女たる自分が素性も分からぬ他国者の妻になることは許されないはず」と訴えます。しかし,皇帝は厳かに拒否し,群集も断じて認めようとしません。カラフはトゥーランドットに向かい,ひと際強く愛を告白し,一同は感動して彼を激励します。

しばらく,意味深長な休符が続いた後,今度はカラフがトゥーランドットに「私はあなたの3つの謎を全部解いた。今度は私がたった一つだけ謎を与えよう」と問いかけます。カラフは「私の名は何か?」と問いかけ,「解けたときお望みならば死にましょう」と誓います(カラフは,ここまで「無名の王子」ということになっており,この北京では,ティムールとリュー以外で知る者はいません。)。

トゥーランドットは無言のままうなづいて,挑戦を受け入れます。この部分に静かに流れるメロディは,第3幕で歌われる「誰も寝てはならぬ」で出てくる有名なメロディで「愛のテーマ」と言って良いものです(”イナバウアー”の音楽と言った方が良いかもしれませんが)。皇帝はカラフに向かって「わが子」と祝福し,民衆の歓呼の中にカラフはゆっくりと大階段を上って,玉座の下にひざまずきます。華やかな金管楽器の響きの中に荘重なオルガンの響きも加わり,皇帝賛歌の大合唱の中,絢爛豪華な第2幕が終わります。

第3幕 第1場
前幕と同日の夜中。王宮内の宏壮な起伏の多い庭園。右手には5段の階段のついたあづまやがあり,豪華な刺繍のカーテンが下りている。

遠くから夜の北京の街中を触れ歩く役人たち(8人のテノール)の「今夜,北京では,どんなことがあっても,あの王子の名前を探り出すため,市民は誰1人寝てはならぬ。そむいたものは死刑とする。」という声が聞こえてきます。この布告が繰り返されながら遠ざかっていきます。

庭園の中で,1人でこの歌を聞いていたカラフは,その言葉を繰り返しながら,美しいアリアを歌います。これがこのオペラ中,いちばん有名なアリア「誰も寝てはならぬ」です。前半は比較的静かにうっとりするような感じのメロディが続いた後,後半,先に出てきた「愛のテーマ」が朗々と出てきます。最後は,「勝利は我の手に」と高いロの音を聞かせ,情熱的に歌い上げます(ただし,オペラの中では,そのまま音楽が流れて行きますので,このアリアの後に拍手を入れることはできません)。

曲調が変わり,木立の間から仮面の3大臣が姿を現します。彼らは夜明けまでに王子の名を突き止めなければ,首をはねられることになっているので,いろいろな策で名前の名乗らせようとします。3人はまず,美女でもって王子をたらしこもうとするが,王子は見向きもしません。続いて,今度は黄金や宝石で買収にかかりますが,効果はありません。3大臣は半ば絶望した様子で,王子を脅したりすかしたり,群衆と一緒に哀願しますが全く効き目はありません。この辺では,軽妙な音楽と重々しい音楽とが交錯します。

その時,舞台裏で「わかったぞ」という声がして,兵士(8人のバス)が年老いたティムールとリューを引き立ててきます。王子は驚いて2人に駆け寄ります。それを見たピンは,トゥーランドットを呼びに行きます。

ヴェールを付けたトゥーランドットが登場し,ティムールに「彼の名を言え」と厳しく命じます。その時,リューがトゥーランドットに駆け寄って「この方の名前は私だけが知っています」と訴えます。一同から安堵のため息が聞こえますが,リューは「その名は私の胸の中に秘めておく」という言います。怒った兵士は,リューを取り押さえます。

トゥーランドットは,口を割らないリューに対して「一体お前はどうしてそんな勇気があるのか?」と尋ねます。リューは「王女さま,それは愛のためでございます」と答え,愛というものを知らないトゥーランドットをますます怒らせます。ピンは首斬役人プーティンパオを呼び,興奮した群衆も「その女を拷問にかけろ!」と叫びます。

苦悶しながらトゥーランドットの足許に近づいたリューは,悲しげに最後の訴えを歌います。ここで歌われるのが「氷のような姫君の心も」というリューのアリアです。2/4と4/4が1小節ごとに交替する曲で,プッチーニらしい哀愁に満ちたメロディを堪能できます。その後,リューは,突然,兵士の腰から短刀をひったくり,それを自分の胸に突き刺します。リューは,苦しみながらも王子の方にすがろうとして息絶えます。この「リューの死」は,オペラの中でも最も印象的な名場面ですが,プッチーニ自身もこの部分まで書いて亡くなっています。

このアリアのメロディをオーケストラが演奏する中,王子とティムールは,彼女の亡がらにすがり付いて悲しみます。彼女の死体は,兵士によって静かに運び去られます。リューの死を悼んで,群衆,3大臣など全員が去り,彫像のように立ったトゥーランドット姫と王子だけが残されます。ここからは,2人の二重唱が続きます。

じっと動かないトゥーランドットに王子は,「その冷たい心の扉を開くのだ」と情熱的に呼びかけ,その顔を覆っているヴェールをはねのけます。トゥーランドットは,まだ威厳を保ち,「私は人間ではなく,神の娘です」と叫びますが,ついに王子は彼女を抱いてあずまやの中に連れ込み,接吻します。

姫はリューの献身を目の当たりにしてからその冷たい心にも変化が生じており,長い沈黙の後,身を離したトゥーランドットは,別の人間に生まれ変わったように不思議そうにつぶやきます。

既に夜は明け始め,遠くから朝の訪れを告げる歌声が聞こえてきます。トゥーランドットは,彼を愛するようになり,その胸に抱かれて涙を流す。ここで歌われるのが「初めての涙」というアリアです。

姫は,勝利を得た上は秘密を明かさずに立ち去るように叫びますが,王子はそれをさえぎり,高らかに「私の名はカラフ。ティムール王の王子」と叫び,それを聞いたトゥーランドットは勝ち誇ったように顔を輝かせます。朝の儀式が整ったことを告げるトランペットのファンファーレが鳴った後,トゥーランドットはカラフの手を取って,その場を去ります。

第2場 第2幕第2場と同じ宮殿前の広場。

ファンファーレの後,第2幕に出てきた行進曲となり,中央の大階段上の玉座には貴族,高官,賢者を従えた皇帝アルトゥムが着席します。広場の両側は群衆によって半円形に埋め尽くされています。

人々が皇帝万歳と歌う中,カラフとトゥーランドットは登場し,大階段上に立ちます。トゥーランドットは,一同が見守る中,誇らしげに,「約束の朝,私は彼の名を知りました。その名は「愛」」と宣言します。カラフは大階段を一気に駆け上がり,トゥーランドットとしっかり抱擁を交わします。群衆は愛の勝利を高らかに賛美し,「カラフの愛のテーマ」の上で「おお太陽,生命,久遠」と喜びを歌い,王子と姫の栄光と幸福を祝います。その大合唱のうちに歌劇の最後の幕が下ります

(参考)
  • プッチーニ/歌劇「トゥーランドット」(モリナーリ=プラデルリ指揮ローマ国立歌劇場)のCD(TOCE-6461〜2)の解説
  • 作曲家別名曲ライブラリー24.プッチーニ 音楽之友社,1995
  • フリー百科事典ウィキぺディアの「トゥーランドット」と「ママとあそぼうピンポンパン」の項目
    (2009/07/18)