ラヴェル Ravel ■マ・メール・ロア 「マ・メール・ロア(Ma Mere l'Oye)」という曲は,元々はラヴェルの友人のゴデブスキー夫妻とその2人の子供たちのために書かれたピアノ連弾用の曲です。この曲は,シャルル・ペローやボーモン夫人らの童話に基づく5つの小品を集めた簡潔で親しみやすい作品です。ちなみに,この「マ・メール・ロア」というのは,「赤ずきんちゃん」「長靴をはいた猫」「シンデレラ」といったお話を含む「ロアお母さんの物語」というペローの童話集に物語の語り手として登場する「ロアお母さん」のことです。子供たちのみならず,大人の詩情も呼び起こしてくれる作品となっています。 この曲は今日ではピアノ連弾以外にも,ラヴェル自身によるオーケストラ編曲版,バレエ版などいろいろな形で演奏されます。ピアノ連弾版とオーケストラ編曲版の曲目は同じですがバレエ版の方は,前奏曲,間奏曲など付け加えられ,曲数が多くなっています。 現在では,オーケストラ編曲版の方がよく演奏されるようですが,そのオーケストレーションもラヴェルならではです。金管楽器は2台のホルンのみの2管編成ですが,木管楽器はピッコロ,イングリッシュホルン,コントラファゴットが持ち替えとなっています。ソリスティックな部分もよく出てきます。色彩感豊かな打楽器もいろいろ使われています。インドネシアのガムラン音楽を思い出させるような東洋趣味も感じられます。以下,組曲版を中心に説明をします。 第1曲 眠りの森の美女のパヴァーヌ 邪悪な妖精の呪いを受けて長い眠りについた王女の寝台のまわりで宮廷に仕える男女がゆっくりと踊るパヴァーヌです。しみじみとしたフルートの音から始まり,いろいろな楽器に歌い継がれていきます。メロディには東洋風の雰囲気も漂っています。 第2曲 おやゆび小僧(一寸法師) 家が貧しいために森に捨てられる一寸法師は,こっそりと道みちにパンくずをまいておきますが,森の小鳥に食べられてしまい,道に迷ってしまう,という物語を描いています。ちょっと不安げな気分の漂う曲です。後半には小鳥の鳴き声の描写が入ります。 第3曲 パゴダの女王レドロネット パゴダというのは,中国製の陶器でできた首振人形をのことを指しています。その人形の女王のレドロネットの入浴中にこの人形たちが小さな楽器を奏でて女王を慰めるというお話です。ここでは中国風の音階が全面的に使われており,「西欧から見た中国」の雰囲気がよく出ています。 軽快なリズムに乗ってフルートが中国風のメロディを吹き始めます。これを他の木管楽器群が引き継いでいきます。マリンバなどが活躍した後,銅鑼がゴーンと鳴る辺りは,「いかにも中国」です(ちょっとハマリすぎているかもしれません)。 第4曲 美女と野獣の対話 魔法使いの呪いで野獣に変えられてしまった王子と姫との対話を描いた音楽です。姫はクラリネットの軽妙なメロディで,野獣の方はコントラ・バスーンの重低音で描かれます。この極端な対比がユーモラスです。 その後,シンバルの一撃で魔法が解けることになります(野獣の求婚を姫が受け入れたことを表現しています)。ハープのグリッサンドの後,野獣は王子の姿に戻ります。 第5曲 妖精の園 バレエ版で使われる前奏曲や間奏曲の中のメロディで始まります。この「妖精の国」というのは「眠りの森の美女」が王子のくちづけによって眠りから覚めるシーンのことを指しています。しっとりと始まった後,次第にクレッシェンドし,最後はキラキラと煌くような音が溢れ,暖かく祝福するようなクライマックスとなります。途中に出てくるヴァイオリンのソロも素晴らしいものです。 (参考)バレエ版 バレエ版は次の順序で演奏されます。
間奏曲の方は「おやゆび小僧」の主題に由来する要素に基づいています。組曲の間をつなぎ,曲全体の統一感を作っています。ところどころ弦楽器が一気に下降してくるような陶酔的な音が聞こえてくるもの効果的です。(2004/06/27) |