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リムスキー=コルサコフ Rimsky-Korsakov
スペイン奇想曲op.34 Capriccio espagnol, op.34
1887年夏,別荘にこもって友人ボロディンの未完のオペラ「イーゴリ公」の補筆にかかっていたリムスキー=コルサコフが,その作業を中断して書いた絢爛豪華なオーケストラ作品です。その後,有名な「シェエラザード」が書かれていますが,これらの作品の雰囲気にはどこか共通するイスラム風の異国情緒が漂っています。

リムスキー=コルサコフは管弦楽法の大家と呼ばれ,現代でも通用するテキストを書いたことで有名ですが,その彼の作風が濃縮されたような名曲です。チャイコフスキーも絶賛したと言われている作品です。

曲は,続けて演奏される次の5つの部分からなっています(ただし,(3)の後に一度休止が入るように聞こえます)。(1)アルボラーダ,(2)変奏曲,(3)アルボラーダ,(4)情景とジプシーの歌,(5)アストゥリアのファンダンゴ

オーケストラのあらゆる楽器に見せ場のある作品で各楽器のソロとオーケストラ全奏が交代するように進んでいく管弦楽のための協奏曲と言っても良い作品です。特にその中では,当初,ヴァイオリンのための幻想曲として着想されたこともあり,ヴァイオリンのソロが大活躍します。曲が始まった直後に出てくるクラリネットも目覚しい活躍をします。

各楽章の主題は,既刊のスペイン民謡曲集に収められていた各地の民謡や舞曲から借用されたものです。そのままダイレクトに民謡を使っているわけではありませんが,スペイン風の雰囲気に満ちた作品となっています。

楽器編成:ピッコロ,フルート2,オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット2,トロンボーン2,テューバ,ティンパニ,トライアングル,大太鼓,小太鼓,シンバル,タンブリン,カスタネット,ハープ

I.アルボラーダ Arborada イ長調
アルボラーダというのは,「朝の歌」といった意味で,スペインのアストゥリア地方の舞曲です。朝方に恋人の家から帰ってくる際に歌われる曲で正確には「朝帰りの歌」ということになります。この楽しげでにぎやかなメロディが,「ターンタタ,ターンタタ」というリズムに乗って,いきなりオーケストラの全合奏で色彩的に演奏されます。それをクラリネットがの独奏が受けます。16分音符のスタッカートとトリルが連続するもので,クラリネットの見せ場です。このトゥッティとソロのやり取りが繰り返された後,今度は独奏ヴァイオリンが演奏します。最後にティンパニの音が出て来た後,興奮が覚めたかのように静かに終わります。

II.変奏曲 Variazioni ヘ長調
ホルンが演奏する「夕べの踊り」の主題と5つの変奏からできている。このメロディも第1曲と同じアストゥリア地方の民謡ということで,朝と夕方の対比が図られていると言えます。変奏曲は,チェロ→木管楽器+金管楽器→フルート+オーボエ+チェロ→ヴァイオリンといった順に進んでいきます。最後の部分ではフルートにメロディが渡されます。

III.アルボラーダ Arborada 変ロ長調
第1曲の繰り返しですが,調性は半音高く,ハープが加っていることもあり,より華やかさを増しています。ここではヴァイオリンとクラリネットが1曲目と逆の役割になっており,クラリネットの分散和音が最後の方で出て来ます。ちなみに1曲目と3曲目で調性が違うため,クラリネット奏者はA管とBb管を持ち替えて演奏することになります。

IV.シェーナ(情景)とロマの歌 Scena e Canto gitano ニ短調
ヴァイオリン,クラリネット,フルート,オーボエ,ハープといった独奏楽器による技巧的なカデンツァが聞きものの楽章です。最初は第1曲の冒頭から導き出された音型によるホルンとトランペットによるファンファーレが小太鼓のロールに乗って景気良く演奏されます。続いて,独奏ヴァイオリンのカデンツァになります。シンバル,タンブリンなどの異国情緒のある打楽器とティンパニのリズムに乗って,フルートとクラリネットがカデンツァを演奏します。さらに,オーボエ,ハープと続きます。

ここで,シェーナの部分が終わり,ヴァイオリンの低い音域でロマの歌を歌い始めます。これはスペインのアンダルシア地方の民謡と言われています。続いてチェロにメランコリックなメロディが出て来ます。この2つのメロディが次第に熱狂的に盛り上がり,そのまま第5曲に続きます。

V.アストゥリアのファンダンゴ Fandango asturiano イ長調
3拍子の情熱的なスペイン舞曲となります。ここでもカスタネット,タンブリンといったスペイン風の楽器た使われ色彩的で華麗なフィナーレを形作ります。最初,トロンボーンがくっきりとファンダンゴのメロディを演奏した後,独奏ヴァイオリンが変奏して行きます。第4曲の雰囲気が回想された後,一度クライマックスを築きます。その後,トロンボーンが最初の主題を再現します。さらに第1曲のアルボラーダのメロディが回想され,さらに熱狂の度合を加えて,全曲が締めくくられます。

(参考文献)
クラシックで世界一周/青島広志.幻冬舎,2007
オーケストラの秘密:大作曲家・名曲のつくる方/金子建志編(200CD).立風書房,1999
(2008/04/05)