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ロドリーゴ Rodrigo
アランフェス協奏曲 Concierto de Aranjuez
1939年に作曲され,1940年にバルセロナで初演されたロドリーゴの代表曲です。20世紀に書かれた協奏的な作品の中でも特に演奏される機会や録音の多い曲で,「ギター協奏曲といえば...アランフェス」というぐらい愛されている作品です。音量の小さなギターとオーケストラの組合せというジャンルを切り開いた作品としても大きな意義を持った作品です(ただし,意外なことに,ロドリーゴ自身はギターを演奏しなかったとのことです。)。

曲は伝統的な3楽章形式で書かれており,ロドリーゴの目指した古典性と民衆性とが見事に合致しています。どの楽章も親しみやすい楽想を持っていますが,特に憂愁に満ちた第2楽章は,ポピュラー音楽として親しまれたり,ジャズにアレンジされたりしている超有名曲です。両端楽章の独特なリズムを持ったラテン的な気分も魅力的で,クラシック・ギター奏者にとっては最重要作品と言っても良い作品となっています。ただし,ギターはオーケストラに比べると音量が大変小さいため,実演ではそのバランスを取るのに大変苦労すると言われています。

ちなみにこの「アランフェス」というのは,スペインの首都のマドリードから南へ47キロ離れた土地の名前です(実際の発音は「アランホエース」に近いようですが,ここでは慣例的に「アランフェス」としておきます。)。スペイン中部の高原は一般に雨は少ないのですが,このアランフェンスでは,タホ川(西に向かってリスボンで海にそそぐ川)の上流にあるため,緑に恵まれ,オアシスを形作っています。

編成:独奏ギター,フルート2(一部ピッコロ持ち替え),オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン2,トランペット2,弦5部。

第1楽章 ニ長調,6/8,ソナタ形式
冒頭ギターによって独特のスペイン的な複合リズムを持った主題が演奏されます。6/8の中に3/4を組み込んだもので,一貫してラテン的な乾いた気分とちょっとユーモラスなウィットを感じさせてくれます。この「タンタカタ,タンタカタ,タッタッタ」というリズムが第1楽章を支配する基本的なリズムとなります。この部分をはじめ,この曲には,フラメンコギターのように,弦を掻き鳴らす奏法が出てきますが,これはラスゲアードと呼ばれています。

続いて出てくる第1主題は,第1ヴァイオリンとオーボエによるもので,明るく浮き立つような気分を持っています。ギターが受け継いだ後,ギターから奏される第2主題になります。

フラメンコのような雰囲気で呈示部が終わった後,展開部となります。楽章冒頭のリズムが弦によって奏された後,チェロが第1主題を短調で演奏します。その後,ギターとオーケストラとのやりとりが続きます。再現部は呈示部を忠実に反復したものです。コーダでは第1主題が扱われ,ギターも和音で参加します。

第2楽章 ロ短調,4/4,5部の歌謡形式(ロンド形式,変奏形式とも見ることができます)
ギターの演奏する和音の上に,「恋のアランフェス」として知られる非常に有名な魅惑的な主題がイングリッシュ・ホルンよって演奏されます。この主題は,「タリラー」というコブシが効いている上,エオリア旋法(自然な短音階)で書かれているので,どこか鄙びたムードを持っています。快活な両端楽章と対照的な気分を持し,その幻想性がくっきりと浮き上がってきます。

楽章は,A−B−A−C−Aのロンド形式ですが,各部分の雰囲気は似ていますので,変奏形式とも考えられます。いずれにしても「ロンド=快活」というムードとは正反対のムードを持っています。途中,ギターの長いカデンツァを含みます。カデンツァの最後の部分で,フラメンコのように弦を掻き鳴らした後(ラスゲアードと呼ばれる奏法です),「チャララーン」と最初の主題がオーケストラの全奏で再現されます(こうやって聞くと,この主題は,ちょっと「必殺仕事人」のテーマと似たところがあります。)。最後はデリケートな気分の中で静かに消え入ります。

第3楽章 ニ長調,3/4(2/4にも変化),ロンド形式
第1楽章同様,2/4と3/4とがめまぐるしく拍子が交替します。調性も第1楽章と同じニ長調に戻ります。リズムは複雑だけれども,とても明快な楽章です。ロンド形式ですが,出てくる主題がすべてロンド主題に関連しているので,全体的な気分の変化はなく,活気と機知と風情に満ちた楽章で,ギターとオーケストラの絡み合いが心地よく続きます。(2007/10/14)