ロジャース Rogers

■ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」 The Sound of Music

リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世のコンビは数多くの名作ミュージカルを作りましたが,その最後の作品がこの「サウンド・オブ・ミュージック」です。全ミュージカルの中でもこれだけ有名曲を沢山含む作品もないのではないかと思います。すべてが名曲です。

このミュージカルは,現代ではオリジナルのミュージカルよりも1965年に作られたジュリー・アンドリュース主演のミュージカル映画版の方でよく知られているのではないかと思います。彼女の以外の主役マリアは考えられないほどのはまり役でしたが,オリジナルはメアリー・マーティンが歌っています。どちらかというと日本語訳詞を行ったペギー葉山のような雰囲気があり,ジュリー・アンドリュースとはまた別の味があります。初演当時は,このメアリー・マーティンのマリアが大評判になりました。

ストーリーは,オーストリアの退役軍人トラップ大佐とその7人の子供たちが,修道院から派遣されてきたマリアの明るさで活気を取り戻し,ナチの手から逃れるためにオーストリアから脱出する,というものです。トラップ大佐とマリアは結婚し,9人家族になります。白雪姫と7人の小人という雰囲気もあり,家族全員で楽しむことのできるミュージカルの代表作となりました。

このストーリーは実話に基づいており,「菩提樹」という映画にもなっています。これを観たメアリー・マーティンがミュージカル化することを思いつき完成しました。

この曲の音楽は,ミュージカル版と映画版で微妙に違いますが,ここではベストセラーにもなった映画のサウンド・トラック盤に収録されている曲について紹介します。「エーデルワイス」などはオーストリア民謡のように思えますが,全編ロジャースのオリジナル作品というのが素晴らしい点です。ちなみに映画版の編曲・指揮はアーウィン・コスタルが担当しています。

●登場人物
マリア(修道院から派遣された家庭教師),トラップ大佐(オーストリアの退役軍人,裕福な男やもめ),修道院長,シスター・ソフィア,シスター・マルガレッタ,シスター・ベルテ,ロルフ(電報配達員,長女リーズルの恋人),7人の子供(リーズル,フリードリヒ,ルイザ,クルト,ブリギッタ,マルタ,グレトル)

曲名 歌・編成 解説
前奏曲,サウンド・オブ・ミュージック マリア アルプスの山々が映された後,ぐっとマリアのアップになって,野原の中でいきなり歌い始めるのがこのテーマ曲「サウンド・オブ・ミュージック」です。大変印象的な出だしです。

曲の方も穏やかな前奏に続いて,いきなり高音で始まり,聞いている人の耳を強く引き付けます。ジュリー・アンドリュース演ずるマリアの持つ爽やかささを強く印象づける曲です。中間部では穏やかに自然を讃え,マリアは夢見心地になります。再度,最初の部分に戻り静かに終わります。我に返ったマリアは慌てて修道院の方に戻ります。
序曲 オーケストラ テーマ曲に続いて出てくるのが序曲です。この映画は名曲揃いですが,その名旋律がこれでもかこれでもかとメドレーで出てくる大変ゴージャスな序曲です。
朝の賛美歌,ハレルヤ 合唱 ア・カペラでグレゴリオ聖歌の中の詩篇109番「主は仰せられり」が歌われた後,「朝の賛美歌」になります。この賛美歌もロジャースのオリジナル曲です。「アンジェラスの鐘」の音が鳴った後,晴れやかな「ハレルヤ」になります。この女声4部合唱の「ハレルヤ」もロジャースのオリジナルです。最後はゆっくりとしたテンポになり,静かに終わります。
マリア 修道院長,シスター・ソフィア,シスター・マルガレッタ,シスター・ベルテ 「マリア」の”人となり”をユーモラスに歌った曲です。「マリアは修道院には不向きだ」と尼僧たちが修道院長は歌いますが,基本的には暖かな気分が溢れています。

曲は速い3拍子で始まり,3人の尼僧と修道院長が順々に畳み掛けるようにマリアの悪い行いを列挙していきます。途中「マリアは笑わせてくれる」と笑い声が入った後,テンポが変り,軽快にスイングする感じになります。掛け合いをするように進んだ後,最後は斉唱になり「困ったもんだ」という感じで結ばれます。

この尼僧の中の1人のシスター・ソフィアは映画ではマーニー・ニクソンという人が歌っています。実は,彼女は,映画「マイ・フェアレディ」,映画「ウェストサイド物語」でそれぞれの主役の替わりに吹き替えで歌を歌っています。彼女自身がスクリーンに登場している数少ない場面です。
自信を持って マリア 修道院長からトラップ家に家庭教師に行って社会勉強をしてくるように命じられたマリアが不安な気分の中で「自信を持って」と歌う曲です。

自己暗示にかけるような力強さと不安な気分とが混ざったような曲です。前奏の部分から激しく転調し,オペラのレチタティーヴォを思わすように語り歌われて行きます。めくるめくような気分の変化と多彩な表情を持っています。ジュリー・アンドリュースの演劇的な歌声にぴったりの曲です。オリジナルのミュージカルにはなく,映画のために付け加えられた曲です。
もうすぐ17才 リーズル,ロルフ トラップ家の長女リーズルとその一つ上の恋人ロルフとが交互に歌う初々しさに溢れる曲です。

ロルフによる爽やかなヴァースに続いて,半音的な音の動きと流れるようなメロディが出てきます。若い二人が交互に歌う,とても美しい曲です。

ロルフは映画の後半ではトラップ家と敵対する立場になりますが,ここでは”彼女の力になろう”と”お兄さんぶり”を見せます。二人は踊り始めますが,雨が降り始め,中断させられます。
私のお気に入り マリア 雷を怖がる子供たちが次々にマリアの部屋に入って来た後,「自分のお気に入りを思い浮かべると元気が出る」と歌ってきかせます。歌っているうちに自分自身への応援歌のようにもなってきます。

速い三拍子のリズムの上に上下に動く単純なモチーフが延々と続く曲です。シンプルだけれども耳を引き付ける魅力を持っています。短調で始まりますが,いつのまにか長調になっています。この単純なモチーフは,展開しやすいせいか,ジャズ風にアレンジされることもあります。ジャズ風に演奏しても格好良く決まる曲です。
すべての山に登れ 修道院長 トラップ大佐への思いを整理するために修道院に戻ってきたマリアに対して,修道院長が「自分の人生を見つけなさい」と力強く励ます曲です。

最初低音で始まり,曲の盛り上がりに合わせて音域が上がって行き,最後はドラマティックな高音で結ばれます。文字通り「山に登れ」という感じの音の動きの曲です。映画ではペギー・ウッドという人が歌っていますが,一世一代の名唱という迫力のあるものです。

この曲は映画の最後の場面で合唱でもう一度出てきます。
ひとりぼっちの山羊飼い マリア,子供たち マリアと子供たちがお客さんの前で人形劇を見せる場で歌われます。ポルカ風のリズムに乗って,ヨーデル風の歌が続きます。マリアの伸びやかな歌と子供たちの「レイオル,レイオル...」という掛け声の掛け合いが大変楽しく,ユーモラスな曲です。
10 サウンド・オブ・ミュージック 子供たち,トラップ大佐 映画の最初に出てきた「サウンド・オブ・ミュージック」が今度は子供たちの合唱で歌われます。大佐がマリアに向かって「立ち去れ」と言った後に,子供たちの声がひっそりと聞こえて来る場で歌われます。その美しさに感動した大佐は,曲の後半ではその合唱に加わってしまいます。ドラマの転機となる,感動的な場面です。
11 ドレミの歌 マリア,子供たち マリアが子供たちをピクニックに連れて行き,「音楽の基礎」を教える場面で歌われます。日本ではペギー葉山訳(というよりは作詞)による「ドーはドーナツのド」という歌詞で誰もが知っている曲となっています(それにしても素晴らしい歌詞です。オスカー・ハマースタインIIのオリジナルを超えているかもしれません)。

曲はギターのチューニングを表すような音型に続いて,マリアのシンプルな歌で始まります。単純な音階練習のような音の動きなのに,楽しさが溢れています。子供たちは「ド!」「レ!」という合いの手で曲に加わった後,声を合わせて歌い始めます。

その後,「ソードーラーファーミードーレー」ともう少しメロディアスな歌の練習の部分になります。”Good!”というマリア先生の言葉の後,今度は意味のある言葉を乗せて歌われます。

活気のある展開を見せ,ますます楽しげな雰囲気になった後,「ドミミ,ミソソ,レファファ,ラシシ」の繰り返しと「ソードーラーファー...」が組み合わせられ,さらに生き生きとした表情を見せます。最後は行進曲調になり,華やかなクライマックスを作って「ソ,ド」と終わります。
12 何かよいこと マリア,トラップ大佐 パーティの場で,マリアと大佐が見つめ合って歌う愛の歌です。この映画の中ではもっとも「大人の歌」という雰囲気の漂う曲です。ささやくように歌い始めた後,後半で夢見るように甘く盛り上がって行きます。オリジナルのミュージカルにはなく,映画のために付け加えられた曲です。
13 行列聖歌,マリア 合唱 マリアと大佐の結婚式の場で歌われる曲です。先に出てきた「マリア」を合唱付きの行進曲にアレンジしたもので,パイプオルガンの音を含めて,重厚に歌われます(といいつつ,歌詞は「おしゃべり娘で道化者...」と同じ内容となっているのが面白いところです。)。
14 エーデルワイス トラップ大佐,マリア,子供たち,合唱 ザルツブルクの合唱コンクールに出ることになったトラップ家が祖国を思って歌う曲です。この曲も誰もが知っている,ほとんど民謡のような曲です。こういう誰でも歌える名曲を次々と書いたところが,リチャード・ロジャースの素晴らしい点です。

トラップ大佐が,美しいクルーナー・ボイスで歌いはじめますが,途中,声を詰まらせます。それを助けるように,マリアと子供たちの声が加わり,最後は会場全体の大合唱となります。
15 さようなら,ごきげんよう 子供たち,合唱 トラップ家で行われたパーティの「おひらき」の出し物として7人の子供たちが可愛らしい振り付きで歌う曲です。英語,フランス語,ドイツ語で「さよなら」という言葉を順に歌っていきます。最後はいちばん小さなグレトルが半分目が閉じてしまったように眠そうに歌って,「グッバーイ」というお客さんの暖かな合唱と共に終わります。

この曲は,ザルツブルクのコンクールの場面でも歌われます。これはコンクールの出し物であると共に祖国への別れも意味しています。
16 すべての山に登れ 合唱 ナチの追っ手から逃れて,アルプスを越えてスイスに向かうラストシーンで流れる合唱曲です。ここでは最初の方の歌詞は歌われず,後半だけが歌われます。「夢を見つけるまですべての山に登れ...」と感動的に結ばれます。

(参考文献)
  • ミュージカルへの招待/宮本啓(丸善ライブラリー).丸善,1995
  • 映画「サウンド・オブ・ミュージック」サウンドトラック盤の解説
(2004/08/24)