ロッシーニ Rossini

■歌劇「どろぼうかささぎ」

序曲
この「どろぼうかささぎ」という歌劇は,全曲演奏される機会は皆無といっても良い作品です。1817年に初演された2幕から成る喜劇らしいのですが,どういう話か私もよく知りません。この作品の名前が現在まで生き残っているのは,その序曲の魅力によります。

序曲は何かの合図のような小太鼓のロールで始まります。その後,楽しげな行進曲調になります。弦楽器の元気の良い響きに,合いの手のように管楽器の音が絡んできます。これがしばらく繰り返されます。

主部は短調で始まります。小太鼓のロールに続いて,ヴァイオリンの速い音の動きによるメランコリックな第1主題が出てきます。音量が増していって,大きく盛り上がった後,第1主題と対照的に楽天的な気分を持った第2主題が出てきます。こちらの方は,オーボエからヴァイオリンに引き継がれるように滑らかに出てきます。このメロディは色々な楽器で繰り返されます。

続いて出てくるのが「ロッシーニ・クレッシェンド」です。弱音で笑いをこらえるように3拍子のリズムが繰り返されるのですが,これが息長くクレッシェンドしていき,最後には大音量に発展していきます。

その後,第1主題の悲しげなメロディと呑気な第2主題とが再現されます。ここでもまた,ロッシーニ・クレッシェンドが出てきて,コーダに流れ込んでいきます。元気の良さを維持したまま,華やかに曲が結ばれます。全曲の構成は「セヴィリアの理髪師」序曲とよく似ています。

この「どろぼうかささぎ」という曲ですが,村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」という長編小説の第1部のサブタイトルとなっています(「泥棒かささぎ編」)。この小説は,主人公がFM放送で「どろぼうかささぎ」序曲を聞きながらスパゲティをゆでるシーンで始まっていますので,このことでも村上ファンには知られている曲かもしれません。

ちなみに,この部分では「スパゲティをゆでるにはまずうってつけの音楽だった」と書かれています。短調の部分があるけれども,からっとしたラテン的な気分のあるこの曲は,まさにそういう曲です。10分ほどの長さということで,麺が茹で上がるまでの時間とも一致するかもしれません。なお,この小説で流れていた演奏はクラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団の演奏ということになっています。お暇な方は,実際にこのシーンを再現してみるのもまた一興でしょう。(2002/05/04)