さだまさし Sada

■親父の一番長い日

新日本フィルが毎年夏に開催している軽井沢音楽祭に,1978年ゲストとして招かれたさだまさしが指揮の山本直純と打ち合わせて作った叙事詩的なスケールを持った作品。この2人が「今までになかった曲を作ろう」と打ち合わせを重ねて作っただけあって,他に比較するものがないほどの感動を味わわせてくれる曲です。とにかく泣かせる作品です。

同じ,さだの「秋桜」が結婚直前の母娘を描いていたのに対し,この曲は,娘が生まれてから結婚するまでを編年体で歌っています。「結婚する前に一度で良いから殴らせろ」という親父のセリフの部分は,さだの曲の中でも特にドラマティックです。

曲は,ギターのシンプルなアルペジオの伴奏で始まります。この伴奏は基本的に曲の間中続いています。その上に,娘が生まれてからの物語が,ちょっと饒舌なユーモアをちりばめながら歌い語られていきます。前半では「自画自賛」「狂喜乱舞」「才気煥発」「無我夢中」と言葉遊び的に四文字熟語が入っているのもさださんらしいところです。

曲はラヴェルのボレロのように次第に編成が大きくなっていきます。前半はこのユーモアを散りばめながら,家族4人の日常生活の幸福感を感じさせる具体的なエピソードがどんどん積み重ねられていきます。聞いているうちに,聞き手は次第にこの家族の一員になったような感覚になり,「幸せが続いて欲しい」という歌詞に共感します(この部分でまず「ウル」っとさせます)。

その後,しばらくオーケストラのだけの演奏によるかなり長い間奏が入ります。この部分の効果が素晴らしく,曲の後半のさらに大きな盛り上がりを準備します。

この間奏の後,娘にプロポーズした若者に対して「結婚する前に一度で良いから殴らせろ」という”いかにも頑固親父”的なセリフが出てきます。聴衆の方も,前半のエピソードを覚えていますので,この部分に共感させられます。これまで同じメロディが繰り返されていたのが,この決めセリフの入る直前の部分だけ,微妙にメロディが変えられ,”ここが勝負どころなのだ”という感情の高ぶりを感じさせてくれます。何度聞いても泣かせる職人芸的な曲の作りとなっています。

その後,曲調は徐々にクールダウンして,親父にとっても兄貴にとっても「一番長い日」だった結婚式が終わります。

この曲は,本来,編曲者の山本直純指揮新日本フィルとの共演で初演されるはずでしたが,直純さんは事情があって指揮をすることができなくなりました。代役で初演したのが岩城宏之さんでした。岩城は,初演の指揮をしながらさださんと一緒に涙を流し,「山本直純一世一代の名編曲」と評したとのことです。ちなみにこの曲は,翌1979年にLPサイズのシングルレコードとして発売されたことでも話題になりました。この録音は歌舞伎座でのライブ録音で,山本直純さん自身が指揮をしています。(2004/07/10)