さだまさし Sada

■つゆのあとさき

1977年7月に発売されたアルバム「風見鶏」に収録された作品。美しく新鮮なメロディ,感動的な盛り上がり,深い余韻を持った名曲です。この「風見鶏」は,グレープを解散し,さだがソロ活動を始めたばかりの時期に作られたアルバムで,名曲揃いです。サイモンとガーファンクルの弦楽アレンジを行った,ジミー・ハスケルをアレンジャーとして迎えた点でも注目を集めました。

この曲は,男女の破局を「卒業」という言葉に置き換えて歌っているのが面白いところです。そのせいか,曲全体に甘酸っぱいような若々しい美しさがあります。曲は,静かに落ち着いた語り口で始まります。シンプルに少しずつ上に伸びていくような端正なメロディで始まるので,「本当の卒業式の歌か?」と思わせますが,この「卒業式」は「君と僕との卒業式」ということです(素直に聞くと「梅雨の季節に何故卒業式?」という疑問が出てくる歌詞かもしれません)。

続く「めぐりあう...」の部分では,殺し文句のような美しい対句が出てきて,詩的な気分にさせてくれます。その後,「梅雨のあとさきの」とタイトルになっている言葉が,歌い上げられます。曲の盛り上がりと感情の盛り上がりとがピタリと一致した後,「トパーズ色の風」と少し陰りの表情を見せます。「トパーズ」という輝きのある言葉と微妙な転調が合わさって,悲しいのか幸せなのか判然としないような複雑な感情を見事に表現しています。

二番は少し縮小された形で繰り返された後,最後に「梅雨のあとさきの」の部分が繰り返されます。その後さらに「めぐりあう時は...」の部分が戻ってくるのがまた絶品です。幸福な時代を回想するように静かにフェードアウトしていって曲は終わります。

この「つゆのあとさき」というタイトルですが,永井荷風の同名の作品からヒントを得ているようです。こういうタイトルの付け方の曲には,他に「檸檬」「多情仏心」といった曲がありますが,この時期のタイトルの特徴の一つとなっています。(2004/07/10)