サン=サーンス Saint-Saens

■組曲「動物の謝肉祭」
サン=サーンスの作った曲の中で最も有名な作品です。いろいろな動物の名前の付けられた14曲の小品からなる組曲で,動物園の中を巡るような楽しさがあります。CDでは「ピーターと狼」と組み合わされることも多いため,一見,子供向けの作品に思われていますが,その分かりやすさの裏には,鋭い風刺精神が溢れています。「ピアニスト」「化石」などが出てくる辺り,ブラック・ユーモア的なセンスも感じられます。

サン=サーンス自身,「ふざけ過ぎている」と感じたのか,第13曲の有名な「白鳥」以外はサン=サーンスの生前には出版されていません。公開の場でも演奏されてきませんでしたが,その評判だけは広がっていたようで,サン=サーンスの亡くなった1922年に早速出版され,その後は描写音楽を代表する名曲として世界中で親しまれています。

通常はオーケストラで演奏されますが,仲間内での初演の時は室内楽編成で演奏されました。近年ではこの室内楽編成で演奏されることも増えてきています。ちなみに次のような編成です。

ピアノ2台,弦楽五部,フルート,ピッコロ,クラリネット,木琴,グラスハーモニカ(チェレスタで代用)

ナレーション付きで演奏されることもよくありますが,これはオリジナルに入っている訳ではありません。そのシナリオの有無及びその内容次第でかなり印象の変わっってくる曲でもあります。

第1曲 序奏と獅子王の行進
ピアノのトレモロに続いて低音から盛り上がってくるような序奏が始まります。その後,ピアノのリズムがファンファーレ風になり,勇壮な行進曲となります。
 
第2曲 めんどりとおんどり
めんどりとおんどりとが掛け合いをするかのようにキビキビと演奏される曲です。最後の方は音の動きが段々と速くなっていきます。サン=サーンスの尊敬するラモーのクラブサン曲の影響の感じられる曲です。

第3曲 らば(野生の)
ピアノの独奏によって,野原を自在に駆け回るらばを描写します。ショパンのエチュードを思わせるようなアルペジオの動きが印象的です。

第4曲 亀
最初のうちはよくわからないのですが...ピアノの刻むリズムの上でオッフェンバックの「天国と地獄」に出てくる,有名なギャロップの部分を「超低速」で演奏しているものだということが分かってきます。

第5曲 象
ピアノによるダイナミックな序奏に続いてコントラバスが重量感に溢れるワルツを演奏します。中間で出てくるのは,ベルリオーズの「ファウストの劫罰」の中の「妖精の踊り」のメロディです。ここではもう一つ,メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」の中のスケルツォのメロディも出てきます。「象」と「妖精」というミスマッチが楽しい作品です。

第6曲 カンガルー
ピョンピョン跳んでは一休みする―そういうカンガルーの動作をピアノが見事に描写します。

第7曲 水族館
澄んだ水を見事に描写した曲です。チェレスタとピアノが美しく絡みあい,全編に渡り涼しげなムードが漂います。

第8曲 耳の長い登場人物(飼い馴らされた従順なろば)
ヴァイオリンによって,「ヒッ」としゃっくりを上げるような音が執拗に繰り返される曲です。この「しゃっくり」の後,必ず低音が出てくるのですが,この音の動きも何ともユーモラスです。

第9曲 森の奥に棲むかっこう
森のムードを表すようなピアノによる静かな序奏に続いて,クラリネットがかっこうの音型を繰り返し演奏します。

第10曲 大きな鳥かご
新鮮な空気を感じさせるような序奏に続いて,フルートによって小鳥の鳴き声を模したメロディが自在に演奏されます。

第11曲 ピアニスト
ピアニスト2人が「ドレドレドレドレ,ドレドレドレドレ,ドレミファソラミレ,ドレミファソラミレ...」と,ハノン練習曲に出てくるような音階を延々と演奏する曲です。合間にオーケストラが律儀に「ジャン」と合いの手を入れます。この曲では,2人が音をずらしたり,テンポを揺らしたり...「わざと下手に演奏する」というのが一種定番のようになっています。最後の和音は完結した感じではないので,そのまま次の「化石」に繋がる感じになります。

第12曲 化石
まず,木琴によってサン=サーンス自身の「死の舞踏」のメロディが軽快に演奏されます。自らの曲を「化石」とみなしている辺り,いかにもサン=サーンスらしいところです。このメロディはロンド主題のように繰り返し再現されます。続いて,おなじみの「キラキラ星」のメロディが出てきます。この曲も古いメロディということで「化石」なのでしょうか?それに続いて出てくるメロディも「月の光」というこれもまた有名な古いフランス民謡の一部です。その後,クラリネットに気持ちよさげなメロディが出てきた後,ロッシーニの「セヴィリアの理髪師」の中のロジーナのアリア「今の歌声は」の一節につながって行きます。最後に「死の舞踏」のメロディが再現されて終わります。

第13曲 白鳥
組曲から離れて単独で演奏されることの非常に多い不朽の名作です。ピアノ2台によるさざなみのような伴奏に乗ってチェロが優雅で気品に満ちた美しいメロディを演奏します。このピアノ伴奏は曲の間ずっと続きます。途中,少し曲想が暗くなりますが,優雅な雰囲気は変わらず,再度最初のメロディが戻ってきて静かに結ばれます。

この曲は,アンナ・パブロワが演じて知られるようになった「瀕死の白鳥」としてバレエ上演されることもあります。

第14曲 終曲
まず,ピアノに第1曲の最初の部分と同様のトレモロが出てきます。それにさらにキラキラとした音が加わり,華やかなエンディングの幕開けといった雰囲気になります。その後,軽快なリズムに乗って,これまで出てきた「動物たち」がカーテン・コールのように再登場します。象や亀やカンガルーが勢ぞろいしてフレンチ・カンカンを踊るといったところでしょうか。

映画の本編が終わった後,曲がアップテンポに変わり,各登場人物の回想シーンの映像が素早くパッパッと切り替わる−といったパターンがよくありますが,この曲の場合もまさにそういう鮮やかさのあるエンディングとなっています。(2005/12/13)