サン=サーンス Saint-Saens

■ピアノ協奏曲第5番ヘ長調op.103「エジプト風」

サン=サーンスは幼い頃からピアニストとしての才能を発揮していたこともあり,ピアノ協奏曲を5曲書いています。いずれも洗練された趣味の良さを持ち,華麗で軽やかにピアノとオーケストラが戯れます。

この第5番はその最後に作曲された作品です。サン=サーンスの楽壇デビュー50周年を記念の演奏会で初演された曲です。第4番の21年後に作曲されていることもあり,彼が以前よく使っていた循環形式から脱却してより自由に作曲しているのが特徴です。

「エジプト風」というあだ名で呼ばれているのは,第2楽章の異国情緒漂う雰囲気によります。実際,この曲は1896年にサン=サーンスがエジプト滞在中に作曲されています。サン=サーンスは作曲当時61歳でしたが,枯れたところは全くなく,シンプルで分かりやすい中に熟練の作曲技法が盛り込まれた親しみやすい作品となっています。

ちなみにサン=サーンスは,エジプトに限らず再三アフリカ旅行をしています。亡くなったのもアルジェリアのアルジェのホテルです。

[楽器編成] 独奏ピアノ,フルート2,ピッコロ,オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット2,トロンボーン3,ティンパニー,タムタム,弦5部

第1楽章 アレグロ・アニマート
木管楽器の静かな和音の中からピアノによって演奏される優しくシンプルなメロディが湧き出てきます。ホルンに「タタタタター」という印象的な信号が出て,幻想的な気分になった後,しばらくしてピアノを中心ににメランコリックなメロディが出てきます。

ホルンの信号のリズムとピアノのきらびやかな音の動きが絡み合ううちに展開風の部分になります。ここではピアノの暗くゴージャスな響きを中心に進んでいきます。

ピアノの華麗な装飾音に包まれて最初のシンプルな主題が再現します。その後,ホルンの信号のリズムやメランコリックなメロディも再現します。ピアノにきらびやかなパッセージが出てきた後,曲は静かな雰囲気になり,さらりと結ばれます。

第2楽章 アンダンテ−アンダンテ・トランクィロ−アンダンテ
先に書いたとおり,この楽章の異国情緒漂う雰囲気から「エジプト風」と呼ばれています。ただし,エジプト風の要素を取り入れてはいますが,音階の感じにはスペイン風といったところもあります。いずれにしてもエキゾチックな情熱を秘めた「ジャン」という響きで楽章は始まり,オーケストラとピアノが華麗に絡んで行きます。

しばらくすると静かな部分になります。この部分の繊細な美しさは「ナイル河畔の夜」のムードがあります。サン=サーンスの音楽はムード音楽的だと評されることがありますが,これだけ気持ちの良いのムード音楽は他の作曲家には書けないでしょう。次々と新しいメロディが出てきて,ラプソディックにエジプトの夜は更けて行きます。不思議な色合いを持ったピアノの和音など,音色的にもとても独創的です。

エキゾティックなピアノのパッセージに続いて,最初に出てきたメロディが再現し,静かに楽章を閉じます。

第3楽章 モルト・アレグロ
第2楽章から一転して「トッカータ風」の速い音の動きが続きます。ピアノは楽章の最初から技巧的なパッセージを演奏します。しばらくしてシンプルで親しみやすいメロディがピアノに出てきますが,このメロディは色々な楽器で楽章中何度か繰り返し演奏されます。その間にも親しみやすいメロディが次々と出てきます。

途中,少し短調になる部分はありますが,最後,ピアノが技巧的なパッセージを華麗に演奏して,ぐっと情熱的に高揚した後,全曲が明るく結ばれます。(2004/08/14)