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サン=サーンス Saint-Saens
交響曲第3番ハ短調,op.78  Symphony No.3 in C minor, op.78

ロマン派時代になって,交響曲にもいろいろなバリエーションが登場してきましたが,その中でも異彩を放っているのが,サン=サーンスのこの作品です。サブタイトルにあるように,クライマックスを中心として,パイプオルガンが盛大に使われているのが大きな特徴となっています。その他,ピアノ(連弾)も使われますので,サン=サーンスのみならずフランスの交響曲の代表作であるにも関わらず,実演で聞く機会はそれほど多くありません。日本では,もっぱらオーディオ装置のダイナミック・レンジのチェック用として聞かれてきた作品でもあります。

ただし,曲の構造自体は,サン=サーンスらしく,理に適った構成で,古典的な交響曲の枠組みを踏襲しています。サン=サーンス自身,この曲を作曲した頃,家族生活が崩壊していたと言われていますが,外面的な華やかさの裏に孤独な作曲家の寂寥感があることを見出すとまた違ったように響いてくる作品です。

この作品は,パリ音楽院の学生時代からオルガンの即興演奏に非凡な才能を見せ,その後,フランスのオルガニスト最高位であるマドレーヌ寺院のオルガニストを永年に渡って務めたサン=サーンスがロンドンのフィルハーモニック協会の依頼に基づいて書いた作品です。サン=サーンスは,1886年の初演の成功の後「私は与えなければならないすべてをこの曲に与えた」と語ったと言われていますが,サン=サーンスの特技と職人技のすべてを注ぎ込んだ,彼の作った最高傑作とも言える作品です。

楽章は,2つの部分から成っていますが,それぞれさらに2つに分かれますので,実質的には4楽章構成の曲といえます。この曲は,冒頭の主題が後の楽章で何度も登場する循環形式を取っていますが,そのことによって壮麗さの一方で,全曲が緻密で引き締まっているのも見事な点です。

楽器編成:フルート3(1つはピッコロ持ち替え),オーボエ2,イングリッシュホルン,クラリネット2,バス・クラリネット,ファゴット2,コントラ・ファゴット,ホルン4,トランペット3,トロンボーン3,チューバ,ティンパニ,トライアングル,シンバル,大太鼓,オルガン,ピアノ(奏者2,連弾部分を含む),弦楽五部

第1楽章
第1部 アダージョ 6/8−アレグロ・モデラート 6/8 自由なソナタ形式
暗闇の中に薄明かりがかすかに光っているようなひっそりとした気分を持つアダージョの導入部に続き,アレグロ・モデラートの主部になります。まずヴァイオリンを中心として音が震えるように細かく動く,暗い情熱を含んだ第1主題が演奏されます。この主題は,全曲を通じて何度も繰り返し登場する循環主題の基本となる重要なものです。その後に管楽器群も加わり,色合いが次第に鮮やかになっていきます。

しばらくして,穏やかな第2主題が呈示されます。これが展開される中で,「怒りの日」の断片のようなフレーズも登場します。大きなクライマックスを築いた後,展開部に当たる部分となり,第1主題を中心に暗い雰囲気を保ったまま進みます。再現部は,ほぼ型どおりですが,より壮麗さを増しています。第2主題はヘ長調で再現されます。その後,弦楽器のピツィカートを中心とした静かな部分になり,そのまま第2部に入っていきます。

第2部 ポコ・アダージョ変ニ長調 4/4 三部形式
ここで初めてオルガンが入ってきます。オルガンが静かに和音を演奏する上に,チェロより上の弦楽器が美しいメロディをユニゾンで歌います。サン=サーンスが書いた曲の中でも特に敬虔な感動に満ちた音楽です。このメロディが木管楽器で繰り返された後,繊細な雰囲気になり変奏風に進んでいきます。

中間部は,循環主題に基づく陰気なものですが,どこかペシミスティックな美しさを持っています。ひっそりと演奏されるピツィカートがそのまま,再現部の伴奏につながり,最初の豊かなメロディが導き出されます。最後はオルガンの演奏する変ニ長調の主和音で静かに楽章が結ばれます。

第2楽章
第1部 アレグロ・モデラート ハ短調6/8−プレスト ハ長調6/8

スケルツォに当たる部分で,畳み掛けるように進んで行きます。このスケルツォ主題も第1楽章に出てきたいくつかの主題から導き出されているものです。そのこともあり,非常に密度の高さを感じさせてくれます。

中間部はプレストになり,調性もハ長調となります。木管楽器による早い音の動きにピアノも加わり,軽妙で華麗な気分を作ります。その後,新しいメロディが出てきますが,これもまた第1主題と関連しています。その後,最初のアレグロ・モデラートが再現されます。引き続いてプレストの部分も再現されますが,こちらの方には低音楽器による大らかな感じの新たな主題が重層的に加わり,クライマックスに向けての準備を行います。この新しい主題がカノン風に扱われた後,弦楽器だけによる静かな雰囲気になります。低音弦が時々循環主題を回想し,一旦休符が入った後,第2部になります。

第2部 マエストーソ ハ長調
第2部は,オルガンがまさに壮麗といった感じで登場します。ハ長調の主和音に続き,弦楽器群が荘重なメロディを合いの手のように入れます。続いて,ピアノの演奏するさざ波の上に弦楽合奏がコラール風に美しいメロディを歌います。この辺りは,「動物の謝肉祭」の中の「水族館」を思わせるようなサン=サーンスならではのオーケストレーションです。その後,オルガンの堂々たる歩みに金管楽器によるファンファーレも加わり大きく盛り上がります。

続くアレグロの部分では循環主題がフガート風に扱われた後,新たに出てきた旋律的な主題がカノン風に扱われます。一旦静かになった後,これらが渾然一体となった緻密な展開をみせ,フィナーレに向けた新たな盛り上がりを準備します。楽章の最後では,オルガンの強奏とティンパニによる分散和音とを交えた壮大なクライマックスが築かれ,ハ長調の主和音上に全曲が閉じられます。

(参考)最新名曲解説全集2.交響曲II.音楽之友社,1979
(2007/01/08)