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スカルラッティ Scarlatti, Domenico
ソナタ集 Sonatas

後期バロック音楽の大作曲家と言えば,ヨハン・セバスティアン・バッハとヘンデルが何よりも有名ですが,その二人と同じ1685年にイタリアのシチリア島パレルモで生まれたドメニコ・スカルラッティの名も忘れるわけにはいきません。

スカルラッティという作曲家には,ナポリ派オペラを大成させたアレッサンドロ・スカルラッティという大家もいますが,その第6子に当たるのが,ドメニコ・スカルラッティです。ドメニコの方は,自身がチェンバロの名手だったこともあり,器楽音楽,特に鍵盤楽器のジャンルに非常に沢山の作品を残しています。

その作品の中心を成すのが,2つの部分からなる単一楽章構成によるチェンバロのためのソナタ集です。古典派時代のソナタとは全く別の様式ですが,その中には近代ピアノ音楽で使われるテクニックがふんだん使われており,現代のピアノ・リサイタルやCD録音等でも頻繁に取り上げられています。

作品の長さは,3分から5分程度のものが多く,文字通り珠玉の作品集といえます。全部で555曲にも上るため,その全貌を知るのは大変ですが,気に入った作品を好きなだけ選んぶ「選曲の楽しみ」があるのもスカルラッティならではです。

スカルラッティは,長年,ポルトガルの王女マリア・バルバラに仕えており,彼女がスペイン王妃になった後は,マドリッドの宮廷で過ごしています。今日残されている作品の多くもこのマドリッド時代に書かれたものです。イタリア的なメロディの美しさに加え,スペイン的な情緒があるのも作品の魅力となっています。

なお,スカルラッティのソナタについては,長年,アレッサンドロ・ロンゴによるロンゴ番号(Lと省略)が使われてきましたが,この番号は調性や調号上から再編纂した便宜的な番号であるため,その後,カークパトリックが付けたカークパトリック番号(Kと省略)も使われるようになりました。Kの方は,全ソナタを写本年代順に並べたものです。

それ以外にペステッリ編のカタログ番号も使われることがありますので(これはPと省略),スカルラッティのソナタを区分する時には,KやらLやらPやらいろいろな整理番号がくっつくことになります。

以下,いろいろなCDに収録されている代表的な作品について簡単に紹介しましょう。

K L 調性 拍子 説明
27 449 ロ短調 3/4 曲調は穏やかですが,手の飛び越し,跳躍などの技法が多用されています。
107 474 ヘ長調 3/8 軽やかな音階のパッセージや6度の重音などが効果的に使われている作品
146 349 ト長調 3/8 両手間の頻繁な交差と両手間の滑らかな受け継ぎが要求される分散和音を中心とした軽快な作品
212 135 イ長調 3/8 6度の連続や,細かな分散音型など,様々なテクニックが駆使されたテンポの速い作品です。
247 256 嬰ハ短調 3/8 哀愁に満ちた,歌うようなカンタービレ中心の作品ですが,左手には3度の練習曲のような動きを含んでいます。
380 23 ホ長調 3/4 のどかで優雅なパストラール風の気分を持つ作品。全ソナタ中でもっとも有名な作品です。伴奏に出てくる,「タンタタ,タンタン,タタ...」といった優雅なリズムが心地よく響きます。この一貫して続くリズムと装飾音の扱いが演奏上のポイントとなります。
427 286 ト長調 4/4 素早い指さばきによる軽やかなパッセージが延々と続く中,時折,強い和音が「タンタカターン」と鳴り響くのが印象的です。
454 184 ト長調 3/4 K.380と似た雰囲気を持つ曲ですが,よりきっぱりとしたリズムが特徴的です。
481 187 へ短調 4/4 技巧的な難しさが少ない代わりに,哀愁をおびたメロディラインの美しさが大変印象的です。
491 164 ニ長調 3/4 基本的なリズムの感じは,K.380と似ていますが,より広い音域に渡って激しく動くパッセージや,すばやい移動を要する跳躍などを含んでいます。
492 14 ニ長調 6/8 3度の重音のパッセージで始まる軽快な作品です。途中,難易度の高いスケール演奏や,独特の休符やリズムが出てくるのが特徴です。
513 S.3 ハ長調 8/12〜
3/8
曲の中でテンポが変化するのが特徴です。最初は優雅なシチリア舞曲風に始まります。どこかモーツァルトのピアノソナタK.331の第1楽章の主題を思わせる雰囲気もあります。途中に出てくるメロディは,南イタリアで聖誕祭の時に歌われるパストラールと言われています。曲の最後の部分は,3/8拍子となり,テンポが一気に速くなり,爽快に閉じられます。
531 430 ホ長調 6/8 広い音域に渡る爽やかな分散和音によって進む作品です。

(参考文献)
D.スカルラッティ・ソナタ集/米川幸余(フォンテック FOCD3430の解説)
(2008/09/27)